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「やぁ夜、今少し大丈夫かな?」
一年前、突然隼さんが俺が仕事をしている図書館へ訪れた
「しゅ、隼さん?!こんなところまで出向かせてすいません」
「なぁに、問題ないよ」
隼さんは俺の唇に人差し指を当てた
「文官を一人増やそうかと思うんだけど」
「え?」
足の不自由な俺一人だとやはり力不足だったのか?はたまた実は気づいていないだけで大きな失敗を犯してしまっていたのか?みんなに迷惑をかけすぎたか?
一瞬で頭の中を巡った沢山の言葉に血の気が引くのが分かった
「こーら、悪い想像ばかりしちゃ駄目だよ?その子がちょっとばかし訳有の子でね、夜にお世話を頼みたいんだ
君の功績を讃えてるからこそ頼みたいんだよ?」
「訳有の子…?」
「少し長くなるから、座ってゆっくり話をしようか?」
言われるがまま向かい合って椅子へ座ると、白に魔王様はゆっくりと口を開いた
聞いた話によると、最近助けた女の子らしい
隼さんが来てから戦争もなくなり、平和になったとはいえ、犯罪が全てなくなった訳では無い
元々耳の不自由だった彼女は血の繋がっていない父親とその部下たちに耳が聴こえない、声が出せないのをいい事に肉体的、性的暴行をされていたそうだ
その子だけではなく、最近は街の少女達を拐っては被害が広がり始め、市場調査に行った武官の陽の耳に入り、事態は収まった
無事に少女達を助け出したは良いが…難聴者の彼女は帰る場所がなく隼さんの提案で王宮へ連れられ、今は精神的なケアの為に王宮で安静にしながら隼さんとお喋りして過ごしていたが、そろそろ働いて貰おうか………という流れで今に至る…と
「でも俺に務まるか………」
「夜にしか務まらないと思って頼んでるんだけどなぁ、僕のお願いは聞けないのかな?」
「いや?!そういう事では…!」
「じゃあ引き受けてくれるよね?また海から詳しいことは伝えられると思うから
それと、手が空いてるときにでもこれ読んでみて」
そう言って隼さんは一冊の本を俺へ手渡しすると、図書館を後にした
手の中にある本を開くと
「しゅ、わ…?」
以前読んだ書物に難聴者や聾者が声のかわりに手を使って会話をする方法があると書いてあった、それが手話
自分を頼って貰えたことも嬉しい、それに応えたい
それに今まで経験しなかった声以外で会話をする、ということへの興味が湧いてきた
きっと新しいことが始まるんだ
俺にとってマイナスになるとも思えないしやれるところまでは精一杯務めよう
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作者名:鈴蘭 | 作成日時:2018年2月5日 23時