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「来ないわね…もう寝ていらっしゃい」
約束の時間から1時間30分後。
施設の電話がなることもなく、施設の扉が開くわけでも、インターホンがなることもなかった。
窓がガタガタなるほどの風と積もっていく雪。
結露によってできた白い窓を小さな指でなぞってその隙間から人影が出ないかと今か今かと待っている。
なぞった指先につくヒンヤリした水滴は手のひらを伝う。
9歳と名付けられた子供は、いつしか睡魔に襲われた。
施設員からの命令でみんなのいる寝室へ移動しようとした。
窓の水滴をなぞった跡は、上から流れてくる水滴によって爛れたようになっている。
眠たい目を擦って9歳はドアに背を向けた。
(来なかったなぁ…里親さん。)
須貝さんみたいな人が…現れて…
「すいません!!遅れました…!!!」
窓を大きく開ける音。
その途端入ってくる吹雪の音。
9歳の眠気は吹っ飛んだ。
衝撃が走って、瞳には須貝が映る。
コートも荷物も髪も崩れた姿で走ってきたことを想像させる。
須貝はタクシーから降りてから止まることなく、2キロ走って保護施設まできた。
その間渋滞はとけ、乗っていたタクシーとすれ違っても前だけ見て走ってきた。
数週間越しに見る顔。
待っていた…
里親がこの人だったらって願ってた、顔。
忘れられない、忘れられなかったあの、黄色いパーカーを着た、
「9歳!」
「須貝さん…!」
ヘトヘトで倒れ込んだ須貝に向かって、
一直線に9歳は走っていく。
嬉しい、ということは、見るだけで、行動だけで伝わった。
目尻も頬も赤くして、須貝に飛び込んで強く強く抱きしめていた。
「里親希望の、ナイスガイ須貝駿貴だよ…9歳…」
凍えそうだった手でパーカー越しに頭に手を置く。
まさに感動の再会。
熱すぎる涙が顎を伝っていく。それはやがて須貝のコートに落ちていった。
小さな小さな身体。
「交番には…連れて行かないで…」
「もう、離さないよ…」
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ピーチフラペチーノ(プロフ) - yuriori12911さん» ご指摘ありがとうございます!すみません全然気づいていませんでした…!すぐ修正します。 (2022年9月25日 18時) (レス) id: cb74bd79ea (このIDを非表示/違反報告)
yuriori12911(プロフ) - 多分仮名に あい が登録されているので、「あいつ」の あい が、名前に変換されています。確認してくださると嬉しいです。 (2022年9月25日 4時) (レス) id: 4df0e29a7c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピーチフラペチーノ | 作成日時:2021年1月1日 23時