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「ま……って……」
9歳は俺の着かけのコートの端っこをきゅっと掴んでいた。
俯いているからよく分からないが、フードから少しだけ見える顎には汗が伝っていた。
「どうした、」
「やめて!!!」
こうちゃんが全ていい終わる前に9歳は叫んだ。
ハリのあるカッとした声。
その後またか細い声で「交番には連れて行かないで…」と小声で呟いた。
その眼は大きく潤んで俺にしがりついてすがっているようだった。
こうちゃんは言った。
「君のためなんだ」
分かる。
保護してもらえば9歳のためになるし生きていけるようになる。
それだけの言葉だった。
でも9歳には分からないはずだ。
それは9歳が生きたいと思っているかどうかに限った話だ。
もしここに至る前は普通の家庭にいたのかもしれない。
それから生きることを諦めたのなら、「君のため」なんて、
自分の描いた結末の邪魔でしかない。
そんなことは世の中に幾らでもありふれている。
では何故、人は見知らぬ人に生きることを強要するのか。
「9歳……世の中には『死ぬ権利』ってのがある。安楽死とかだな。」
「え…?」
俺がそう口を開いて喋り出すと興味深そうに顔を向けた。
「それは自分だけでたどり着いて欲しいんだ。
けどお前はこうして知らない家に潜って助けられた。助けに来た。
その時点で、助けを求められた俺は、お前を家へ返さなきゃならないんだ」
そう言葉を放つと、
はっと目を見開いて自分が何故ここを訪ねてしまったのかという顔をした。
納得のいく答えは出なかった。
けど、お前を納得させてやるだけの答え言っただけだ。
9歳はうつむくだけだった。
みんな俺の言葉の意図を察して、仕方なかったような顔をして準備を続けた。
この子の思いも俺の思いも昨日の夜合わなければ生まれなかったし交わらなかった。
「須貝さん、行きましょう」
福良の落ち着いた声に頷いて9歳を呼ぶために後ろを振り向いた。
さっき俺の言った言葉に絶望してるかと思ってた。
振り向けば9歳は他所を見ていた。
隣の部屋の方の…遠くの方を…
ほうっと見ているわけではなかった。
何か恐ろしいものを見ているような眼だった。
目をそらせないと言った感じで瞳が小さくなって揺らいでいる。
息も荒くなって汗も出ている。
「やだ…やだっ」
眉をひそめて震え始めた。
その途端、
9歳は倒れてしまった。
「9歳…!!」
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ピーチフラペチーノ(プロフ) - yuriori12911さん» ご指摘ありがとうございます!すみません全然気づいていませんでした…!すぐ修正します。 (2022年9月25日 18時) (レス) id: cb74bd79ea (このIDを非表示/違反報告)
yuriori12911(プロフ) - 多分仮名に あい が登録されているので、「あいつ」の あい が、名前に変換されています。確認してくださると嬉しいです。 (2022年9月25日 4時) (レス) id: 4df0e29a7c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピーチフラペチーノ | 作成日時:2021年1月1日 23時