暗い過去？無い無い。チートな異能力？無い無い。これはただの体質...のはず...ってか来んな！その２！

フラグ58 ページ19

駅に着いた辺りでおかしいと思った。

が、遅かった。


口車に乗せられてそのまま電車にも乗せられた。
...何うまいこと言ってんだ私。


ちょっとそこまで、の範囲はとうに越えている。
昼までに家に帰るのは厳しそうだ。


『太宰さん。家に連絡しても良いですか？
正直こんなに遠出するとは思ってなかったので』



構わないよーと立ち止まる彼に肩をすくめてから携帯電話を取り出す。

歩きスマホは駄目だ。

電話番号10桁目を打ち始めたところで、はたと手を止めた。


『あー...まだパートかなあ』


画面上部に並ぶアイコンの右端、時刻は11時を指している。もちろん大体だ。

直接連絡したかったが...致し方あるまい。
ちょっと遅くなる、とメッセージを打ちポケットに仕舞った。


「電話はいいの？」
『はい。多分、まだ父は仕事なので』


歩き始めた太宰さんは、ふーんとよく分からない相槌を打つ。


「そう言えば、この前電話した時もお父さんが出たっけ」


もしかして聞いちゃいけないヤツ？とちょっと興奮気味に視線を投げてくる。

本当に...この人は。



『そんな複雑な家庭じゃありませんよ』



私の母は海外にいる。
発展途上国で協力隊として、困っている人に手を差し伸べて生きているのだ。


あれは6年前、何を思ったか「人の役に立つ仕事がしたい」と専業主婦の傍ら英語の勉強を始め、英検2級に一発合格。

その後協力隊審査を二度目でパス。
そして、母が飛び立ってからもうすぐ1年半になる。



『娘の私が言うのもなんですけど、母の頑張る姿は凄く格好良くて印象的でした』



同時に父は会社を辞め、今は貯金と父のパートの給料で暮らしている。

今こうして思うと、かなり勇気のいる決断だ。



『それより、着いたんじゃないですか』


お、と見上げる太宰さんの瞳に、大きな大きな観覧車と、賑やかな声が近づいていた。


.

フラグ59→←フラグ57

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す