054:クロユリ ページ9
やっぱり酔ってるのか。
俺を安室さんと間違えてる。さっきまでは普通にコナンと話してたのに。
「Aさん、ボク安室さんじゃないよ」
『ほら、月が出てないんですよ。狙ったみたいですよね。あの夜も月が出てなくて、気味が悪いくらい星が瞬いてたでしょう』
Aさんは俺の声が聞こえてないかのように変わらず話し続ける。
目の焦点も合っていて、口調もはっきりしていて、それでも取り憑かれたように夜空から目を離さない彼女に1種の恐怖さえ覚えつつ、俺は彼女の袖を引っ張った。
「帰ろう。ね、ほら立って」
『いいじゃないですかちょっとくらい。
降谷さんも見てくださいよ、腹立つくらい綺麗ですよ』
そう言われてしまって、彼女のように空を仰ぐ。
今日は新月だ。月は出ていない。
おかげで星々がキラキラと輝いている。
確かに綺麗だけど…そんなに見ていたいものだろうか。
しばらく眺めていたら、Aさんがまた口を開いて俺じゃない人の名前を呼んだ。
『ねえ、降谷さん』
「……」
もう何も言わずに黙って聞く。
するとAさんは、夜に溶けてしまいそうな声で呟いた。
『なんで、何も言わないんですか』
…今返事をしなかったことについてじゃない。
直感的にそう感じて続きを待つ。
『責めればいいじゃないですか。
なんでなにも言わないんですか。
お前のせいだって、責めて、恨んでくれたらいいのに。そうしてくれた方が私は楽なのに。』
Aさんはそこまで言ってようやく視線を落とした。
その顔は今にも泣きだしそうで、後悔と懺悔にまみれていて。
彼女は綺麗な顔を歪めて言った。
『景光さんが死んだのは、私のせいなのに』
「……え」
刹那、彼女の体がいきなり右に傾いた。
Aさんの頭がゴンッと音を立ててベンチに叩きつけられる。
そのまま彼女はピクリとも動かなくなってしまった。
「え!?ちょっとAさん!?」
急にどうしたんだ!?
慌てて顔を確認する。
しかしその寝顔と規則的な息にホッと息をついた。
な、なんだ寝ただけか…やっぱ酔ってんじゃん…
にしても最後のは一体……あれがAさんの“理由”だろうか。
いや、それより今はこの状況をどうにかしなくては。
さっきから頬を叩いているが全く起きそうにない。
安室さん…は、今日は呼ばない方がよさそうだ。
となると…
俺はスマホをいじり、ある人に電話をかけた。
「あ、赤井さん?ちょっと手を貸してほしいんだけど…」
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びびか(プロフ) - この作品の作り込みが凄すぎて本当に好きです。。素敵な作品に出会えて良かったです!ありがとうございました! (2023年3月27日 20時) (レス) @page32 id: b527a1d6e3 (このIDを非表示/違反報告)
わか - 想像するだけでこっちが照れてくる (2021年12月7日 15時) (レス) @page30 id: 9e519c38d5 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ほぉ…これが降谷さんとの至高の領域だな???ちょっと最上級の語彙力調達してきますね?手持ちの語彙じゃこの素晴らしさは語れないので!!!! (2021年4月30日 23時) (レス) id: 6e0ab3a00d (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - あむむさん» 完結してからしばらく経ってるのに見つけてくれてありがとうございます…!!そんなに褒めて頂けるなんて嬉しすぎて私の心臓が取れます…!25機も消失してご無事ですか!?笑 最後まで読んで下さりありがとうございました!! (2018年11月9日 17時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
あむむ - 初めまして。どうにもこうにも我慢出来なくてコメント失礼します!泣きましたキュンキュンしました心臓取れました辛すぎましたその文章力に脱帽しました!25機くらいは消滅しました…!完結おめでとうございます。お疲れ様でした! (2018年11月8日 21時) (レス) id: eaf01be664 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2018年9月21日 21時