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072:カーネーション ページ27

車を降りた瞬間、明け方前の冷たい空気が熱風に変わった。

ビルは想像以上に激しく燃えている。

ヒガンバナより紅く染まった窓が音を立てて弾け飛び、黒煙は闇夜に溶け込んだ。

サイレンの光に照らされた辺りを見渡しても降谷さんの姿はない。

また一段と炎が大きく膨らんだ。


駆け出したくなる衝動を唇を噛んでグッと抑える。

大丈夫、きっと大丈夫だ。

降谷さんがこれくらいで死ぬわけない。

今までどんなに危うい状況でもなんてことないような顔して生きてたんだもの。


耳元で揺れるイヤリングに触れた。

降谷さんがくれた、降谷さんの色をした雫。

片割れは彼に預けた。

約束したんだ。絶対帰ってきてって。



次の瞬間、パンッと窓が割れて小さな影が弾丸のように飛び出してきた。

幼い体躯にスケボー。いつもの大きなメガネは外れてしまっている。


『コナンくん!!』


スケボーで着地した後に地面に身を打ち付けそうになった彼の下にギリギリで滑り込んだ。

傷だらけの体を抱きしめる。焦げた服の下に痛々しい火傷が見えた。

するとコナンくんが私の腕から顔を出して切羽詰まった顔で告げる。



「安室さんがまだ中に…!」

『……っ!』


その言葉を耳にした瞬間、コナンくんをそばにいた警察官に預けて走り出そうとした。

けれど寸前で小さな手が私の服の袖を引く。


「Aさん行っちゃダメだ!」

『だって…!』

「大丈夫だから!安室さんならきっと…!」


そうは言ってるものの、彼も不安げな瞳で原型を留めていないビルを見上げた。

そうしている間にもビルはガラガラと崩壊していく。

煙がしみても目を離さず、ポケットに入れたままだった白い紙を握って指を組んだ。



『景光さん…!』


お願い、まだ連れていかないで。


まだ言ってない。言えてない。

大事なことは何一つ伝えられていない。

もうなにがあっても逃げないから。ちゃんと向き合うから。

だから…!



刹那、赤々と燃える炎に照らされたアクアマリンが目に映った。

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設定タグ:名探偵コナン , 降谷零 , 安室透   
作品ジャンル:恋愛
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びびか(プロフ) - この作品の作り込みが凄すぎて本当に好きです。。素敵な作品に出会えて良かったです!ありがとうございました! (2023年3月27日 20時) (レス) @page32 id: b527a1d6e3 (このIDを非表示/違反報告)
わか - 想像するだけでこっちが照れてくる (2021年12月7日 15時) (レス) @page30 id: 9e519c38d5 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ほぉ…これが降谷さんとの至高の領域だな???ちょっと最上級の語彙力調達してきますね?手持ちの語彙じゃこの素晴らしさは語れないので!!!! (2021年4月30日 23時) (レス) id: 6e0ab3a00d (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - あむむさん» 完結してからしばらく経ってるのに見つけてくれてありがとうございます…!!そんなに褒めて頂けるなんて嬉しすぎて私の心臓が取れます…!25機も消失してご無事ですか!?笑 最後まで読んで下さりありがとうございました!! (2018年11月9日 17時) (レス) id: 0fab2bc529 (このIDを非表示/違反報告)
あむむ - 初めまして。どうにもこうにも我慢出来なくてコメント失礼します!泣きましたキュンキュンしました心臓取れました辛すぎましたその文章力に脱帽しました!25機くらいは消滅しました…!完結おめでとうございます。お疲れ様でした! (2018年11月8日 21時) (レス) id: eaf01be664 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:立夏 | 作成日時:2018年9月21日 21時

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