29.茜色 ページ31
Aはそのままブランコを少し後ろに引く。
キィ…と鎖の音が暁の公園に響いた。
『降谷さん、私ね、小さい頃から無駄に喧嘩だけは強かったんですよ』
いきなりそんなことを言い出した彼女は、白み始めた東の空を見つめている。
…まぁ、新人のくせにあれだけ戦えるんだしそりゃそうだろうな。
『それで、この力をなにか良いことに使いたいなって思って。その時憧れたのがお巡りさんでした』
「へえ…」
『正直、あの頃はこんなとんでもないところに配属されるなんて想像もしてませんでしたけど』
あはは、と軽く笑うA。
ブランコを降りて、片足を庇いながら明るい方へ数歩進んだ。
『でも、危険なところで戦ってる時も、さっきおばあさんを助けた時も、人を救うことができた後は思えるんです』
Aはそこまで言って、朝日を背に振り返った。
『誰かを助けるって、誰かのために戦うって、こんなに誇らしいものなんだなって!』
その言葉と共に開いた笑顔があまりにも眩しくて、体が固まる。
自分が彼女に見とれていることに気がつくのに数秒を要した。
は…?ちょっと待て、脈がおかしい。
さっきから変な音を立ててる。
なんでこんなに顔が熱いんだ。
なにやってるんだ。しっかりしろよ。
目の前にいるのはAだぞ。
ただの犬だって、思ってた、はずなのに。
『私、警察官になって良かったです!』
彼女はそう言ってから、また昇りかけている朝日の方を向く。
冗談だろ…
こんな、バカでチビで、なに考えてるかわかんないような奴を。
俺が、好きになるとか。
うるさいながらもいつも俺のあとを付いてきて。
ちょっとからかうとすぐ真っ赤になるくらい純情で。
どんな時も明るく周りを元気づけてくれて。
案外怒ってくることだってあって。
嬉しいことがあったら花が咲くみたいに笑って。
そのバカな言動の奥には、純粋すぎる正義感を抱いていて。
でも、だからってそんな…ありえないだろ。
いつの間に俺はここまでAに惹かれてたっていうんだ。
『降谷さん!朝焼け、すごく綺麗ですよ!』
そう言いながら振り向いたAに、隠しようもないほど明確に心臓が高鳴る。
茜色に照らされた姿を、綺麗だと思ってしまった。
はは、まじかよ…
「最悪だ………」
『え!?朝焼け嫌いなんですか!?』
「そっちじゃない」
笑うしかないだろ。
こんなアホな飼い犬を。狂犬を。Aを。
好きになってしまっただなんて。
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如月.夜月(きさらぎ よつき)(プロフ) - 立夏さん» んふふ!良かった!同じですね(*´▽`*) (2021年1月20日 19時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - 如月.夜月(きさらぎ よつき)さん» えっっっっめっちゃいいですねそれ最高ですね!!!??(笑)私もめちゃくちゃ見たいです!!!!!!! (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
立夏(プロフ) - ムースさん» わ〜!そんなにたくさん読んで頂けるなんて本当に嬉しいです!ありがとうございます! (2021年1月20日 2時) (レス) id: 4a977019e9 (このIDを非表示/違反報告)
如月.夜月(きさらぎ よつき)(プロフ) - 安室さん(怪我)、狂犬ちゃん(真顔)にお姫様抱っこされてほしいな… (2021年1月17日 13時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
ムース - 3周目です!好きすぎる! (2020年12月12日 21時) (レス) id: 38b2fa8d4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:立夏 | 作成日時:2018年7月6日 23時