降谷さんが狂犬を飼い始めたらしい。【降谷零/安室透】

27.銀灰色 ページ29

出口の先には新一くんが待っていた。

背負っていた老婦人を下ろして彼に渡す。


｢新一くん、この人頼んだよ！｣

｢え！？ちょ、安室さんどこ行くんですか！？｣

｢まだ１人中にいるんだ！｣


言いながら走り出した。

燃え盛る映画館を見上げる。

想像以上に火の回りが早い。

ガラガラと至る所が崩れ落ちていた。


大丈夫だ。この程度で死ぬようなやつじゃない。

どうせ余裕の顔で出てきてヘラヘラ笑うに決まってる。

そう自分に言い聞かせる。

それでも爆弾で吹き飛ばされた仲間たちが頭をよぎって唇を噛み締めた。


映画館に窓なんて多くない。

最後に別れた場所から考えてどこから飛び降りるつもりかくらい大体見当がつく。

熱風に耐えながら裏手に回れば、急にパンッと少し先にある窓が割れた。

同時にガレキが不自然に飛び出してくる。


Aだ。

炎で照らされた中に一瞬明るい茶髪がチラついた。

しかし無事であることに胸をなで下ろしたのも束の間。

待て待て待て。あいつ着地のことなんにも考えてないだろ。


｢バカ！ちょっと待て！｣


声は恐らく届いていない。

こっちに気づいてすらいない。

迷わず飛び降りたAの姿が見えた。


くそ！間に合え…っ！

Aが地につく直前。

地面を蹴って手を伸ばす。

なんとかギリギリ彼女の体の下に滑り込んだ。



『いった…うわ！？』

｢あっぶねえ………｣

『え！？降谷さん！？』


すすだらけの顔でわたわたするA。

なんだ元気そうじゃねえか。

はぁ…と大きなため息が漏れた。


『受け止めてくれたんですね！ありがとうございます！』

｢はいはい…怪我は？｣

『ないです！見て降谷さん！無傷ですよ無傷！
私ってば超人かもしれない！』

｢あ？肋骨折るぞてめえ｣


腹立つ顔で笑うAの耳を引っ張る。

ほら見ろ。こんなことだろうと思った。

こいつが簡単に死ぬわけないんだ。

痛いですとわめくバカ犬をぎゅっと抱きしめる。

ピタリと動きが止まる。見えないけど、どうせ例によって赤くなってるんだろう。



『ふ、ふるやさん…？』

｢…………説教、何時間されたい？｣

『ひえっ…待って痛い痛い折れますごめんなさいいい！』


顔を上げると、向こうから走ってくる新一くん達が見えた。

…説教は後だな。とりあえずこの場を切り抜けなければ。

Aから離れて安室の顔で笑いかける。


｢やることはまだ残ってますよ、犬子さん｣

『うわ、チャラ谷さんだ』

誰がチャラ谷だ。

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