07→恋と言う感情 ページ8
帰り道の会話はそうハッキリと覚えていない。
相手には悪いけど……
反面、あの階段での出来事はハッキリ覚えている。
そして……
『大丈夫か？』
あの、何処か心地の良い温度と低めの声も。
「っ私の、馬鹿――！！」
恥ずかしさを紛らわせる為に抱きしめていたクッション。
そう自分への罵倒を叫ぶと同時に壁へと思いっきりぶつける。
「(だって、だって……)」
何故こうも彼に失態を見せるのだろう？
名前も知らな……いやあっちは知ってるか…
自分のドジで落ちかけた所を助けてもらって…
挙句の果てにはそのお礼を言わず走って逃げて…
初対面の時には、ぱ、ぱ、ぱ……
「うわぁぁぁぁぁあ！！」
私の叫び声が家中に轟く。
けど誰も叱らないし何も言わない。
いや普通に、両親が共働きだからだけど…
と言うか…
「(なんでこんなに暑い……と言うか心臓煩い…)」
暑いと言うより熱い？
いや、どちらにせよ何かあつい…
それに心臓が強く存在を主張している。
……何か既視感。
そう思った私は徐に本棚の方に向かい、そこから一冊の本を手に取る。
大概本は繰り返し読んでしまう私で特にこの本は良く読んだ。
おかげでお気に入りのシーンが書かれたある一ページは跡が付く程だ。
そう、それはヒロインが好きな人への恋心を自覚するシーン…
「鼓動が妙に煩くて、身体が熱い…」
ヒロインの心境と言うか状態と今の私の状況が合致。
次の瞬間、更に身体は――特に頬に熱が集まるのを感じた。
「(単純か…私……)」
いやいや、あんな事されたら誰だって…
なんて言い訳をするも現状が変わる訳でも無いのは解ってる。
それにあの出会いから少なからず彼の事が頭から離れなかったのも事実。
果たしてあれは衝撃的な出会いだったから覚えていたのか…
それともあの時点で既に私は落ちていたのか…
落ちてしまった今の私にはもう判らない事だと思う。
私は本をテーブルに投げ出してベッドに身体を預ける。
「恋、なんて……」
”恋”
特定の異性に強くひかれること。
また切ないまでに深く思いを寄せること。
それは他人事の様に感じていた感情の一つ。
そして、今日はそれが自分の物になった日。
何だか恥ずかしい反面で、
自分の成長を感じれて嬉しいかな…
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作者名：自宅警備員先生 | 作成日時：2017年10月16日 18時
