備忘録 Ⅳ (ページ38)

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＃166．誰からも愛されるあなたへページ38

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神谷side

「……何言っても、Aに刺さったもんは消えてくれないんだろうけど、お前はさ、信じたいものと、俺たち信じてりゃいいんだよ」

　鎧を着て、盾を持って、矢が、矛先がこれ以上自分に刺さらないようにと、必死になっているAにかけてやれる言葉は限られていた。

　できた傷を修復しても、また新たに深い傷を作って帰ってくるAには、休んでもらいたいのが本音で。

　……それでも現状を知っているからこそ、俺だけでも、俺たちだけでも、Aの背中を押して、安らげる場所を温めておいて、いつでもAが帰ってこられる状態を維持するのが自分たちの役目なのだと言い聞かせる。

『……あのさ、シィさん』

「ん？」

『もし。もしもね。私がこの世界から降りるって決断したとしても、…シィさんは私を肯定してくれる？』

　……何を当たり前なことを言っているのか。

　いつからお前の面倒を見てきたと思っている？

　強がりでいて泣き虫なお前を何回見てきたと思う？

　アイドルを肩から下ろしたお嬢の方がよく知っているのだ。

　お嬢のファンの間では、泣き顔はレアだとか、密着でも弱ってる姿をあまり見せないとか、そんなことばかり言われていると誰かから聞いたことがある。

　実際そんなことはない。

　人より繊細であるために、泣き虫で、落ち込みやすく、それでいて強がろうとする彼女を俺は嫌というほど知っている。

　

「肯定も何も、俺だけじゃなくてみんな思ってるよ。Aがどんな決断をしようと、お前の隣でいつも通り騒いでやろうって」

　『騒がれるのは嫌やなぁ』なんて俯きながらも放った言葉は柔らかみを感じ、口角は自然に上がっていたように思う。

「だからさ、生きたいように生きろ。Aがこの世にいるだけで、俺たちはバカやってけるんだから」

　この言葉に尽きた。いかにAが大切か、いかに愛されているのかをわからせるためには、たったひとつの鋭利な刃物で深く深く抉られた傷を、俺たちが時間と手間をかけて少しずつ癒していく必要がある。

　なに。今までもやってきたことだ。

　これが嫌になんてならない。寧ろ、早くこっちに帰ってこいとすら思わせるAに、俺たちはぞっこんなのだろう。

「ほら、もっと食べろよ、痩せすぎ」

『ええ。そうかな？』

「健康体でいろ！」

『……誰？笑』

　季節は巡るように、そこに居てくれさえしたら、それでいい。

　

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