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ヒロさんは袋の中にあったもうひとつのそれを取り出すと説明書を読んで、俺の手にあるそれとパッケージから取り出したそれを入れ替えた。
「え、」
そしてそのまま俺の手を自分の耳へと持っていく。
よく見れば先程の洗面所で済ませておいたのだろう、しっかりとその耳たぶにはマーキングがあった。
待て、いや、これ。
「や、嫌です、俺、」
『大丈夫、だから、チーノくん、手元揺らすと余計危ないから、』
そう言われてしまえば俺は動けない、
でもAさんに傷をつける真似なんて。
「嫌、嫌です、Aさん、」
『いいの、チーノくんに付けて欲しいの、』
「お願い、Aさん、」
『チーノくん!』
少し大きめの声を出したAさんに驚いて思い切り目を合わせてしまった。
彼女の目は真剣で真っ直ぐで、とても逸らすことは出来なくて。
『...あたしね、正直言うとね、あまり、約束とか、するの苦手なの。』
「っ、」
知っていた。それは彼女なりのケジメだった。嘘つくのが嫌いだから、永遠を約束、とかそんな叶いもしないことを、無責任に言いたくないっていうことを。
けれど馬鹿な俺は、どうしても何か確証が欲しくて、いつも強請って。
時には我慢することもあるけど加減できなくて。
そして結局、あの夜のようになる。
Aさんに心配と迷惑をかけてしまう。
でもそういう時に、世話してくれると、ああ、まだ大丈夫、世話してくれる程度には好かれてるんだって思ってしまう。それが安心してしまうのも事実だ。
『でも、それはさ、...もしかしたら破ってしまう約束かもしれなくてさ、そんな約束したくない、って...伝わるかな。』
『嫌いになったから、合わなくなったから、だけの話じゃ無くて...例えばあたしが不慮の事故とかで、病気とかで、死ぬことだってゼロじゃないわけなのよね?』
言葉を選んでくれているのが分かる。それは凄く嬉しいのに、Aさんが居なくなるという仮の想定にも俺は涙が浮かんでしまう。
Aさんは困ったように笑って睫毛で浮いた涙を指先で掬ってくれた。
自分の情けなさに視線が下がる。俺の手はまだAさんの耳に添えられたままだ。
冷たかったピアッサーはぐるぐる回る俺の血の巡りに合わせて温くなっていく。
『だから、約束できない代わりに、!』
「!、あ、っ、」
バチィ!と音が俺にも聞こえた。
Aさんが俺の手ごとピアッサーを強く押した。
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ちぃ汰。(プロフ) - 了解しました。続きで書くのでしたら是非拝見させて頂きます。宜しければ続きである事を表記していただけたら幸いです。楽しみにしています。 (2019年10月5日 14時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
絶対匿名03(プロフ) - ちぃ汰。さん» ひたすら毒素の詰め合わせ、と言う短編集にて毒素の話として書こうと思っています。よろしければ閲覧していただけると幸いです。 (2019年10月5日 13時) (レス) id: b60e961817 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - 絶対匿名03さん» コメントありがとうございます。続きを書いていただけるのでしたら是非拝見したいです。もしよろしければどちらの作品で書かれるのか教えていただけないでしょうか。ありがたいお話ありがとうございます。 (2019年10月5日 12時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
絶対匿名03(プロフ) - リクエストではないのですが、シリーズ最初のApple Tarteの49話(キュラソーを濁らせて)の話の個人的な続きを書きたいのですが、よろしいでしょうか?なるべく作風や元の口調等が崩れないように注意するつもりです。ご返答よろしくお願いいたします。 (2019年10月5日 8時) (レス) id: b60e961817 (このIDを非表示/違反報告)
ちぃ汰。(プロフ) - 暁さん» こんなに長く読んでいただけてるのを知れて嬉しかったですよ、本当に! こちらとしては皆様のコメントはとても励みになるのでありがたいです...! 是非またリクエストでもなんでもコメントして下さると嬉しいです。 (2019年9月5日 10時) (レス) id: 3f437b8d31 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちぃ汰。 | 作成日時:2019年6月22日 0時