其ノ弐拾伍 ページ26
Noside
犯人を横目に、涙香は素早く姉に駆け寄る。
犯人は、勿論それを見ていたが、咎めることはしなかった。
「姉さん……大丈夫か?」
家族の会話を犯人に聞かれるのが癪で、小声で話す涙香。
「う、うん。」
殴られたりはしたけど……
そう云いかけて、姉はぐっと堪えた。
「今、助けてやるからな。」
弟の言葉に涙を流し乍ら、首を横に振った。
「私の事は、いいから。」
「よくない!姉さんが居ないと俺──」
「感動の再開のとこ、悪ぃな。」
涙香の言葉を遮った犯人は、薄い紙を涙香に手渡した。
「次の作戦だ……よく目、通しておけよ。」
黙って頷いた涙香の顔には、感情が無かった。
いや、ある筈の感情を殺しているのだ。
「(また、彼奴の敵になるのか……)」
作戦を見て、またしてもAの顔が浮かんだ。
「(彼奴に殺されるなら、悪くないかもしれないな。
いや……俺なんかには勿体ない、贅沢な死に方だ。)」
唐突に、そんな事を思い、ふっと笑った。
姉のために組織を裏切ると決めたあの日より、余っ程簡単に覚悟が決まった。
マフィアを敵にする覚悟……
誰かを殺める覚悟……
そして、死ぬ覚悟……
「決行は、二日後だ。逃げんじゃねぇぞ?」
「嗚呼。」
意を決して頷いた時、予期せぬ事態が起きた。
「もう、やめて!」
姉が、突如そう叫んだのだった。
「私の弟を……涙香を苦しめるのはもうやめて!」
苦しそうな姉の声に、涙香は目を見開いた。
犯人は姉を鋭く睨みつけた後、その顔を歪んだ笑みに変えた。
「やめてだぁ?
此奴はお前の為に、進んで俺に協力してんだぞ?」
犯人の言葉に、表情を曇らせた姉は……
「…………私が、涙香の足枷になるくらいなら!」
先程の涙香のように、覚悟を決めたような、そんな表情を見せる。
次の瞬間、何かが弾けたような、潰れたようなそんな音が姉の口の中で小さく響いた。
犯人は、訝しげな表情で姉を見詰めていたが、涙香は、その音が示す結末を瞬時に理解した。
姉の
「姉さん…………姉さん!」
駆け寄った涙香に、姉がほんの少しだけ反応した。
「涙香……幸せに、なっ……………」
彼女の言葉はそこで途切れた。
涙香の顔が、絶望の色に染まる。
涙香にとって、最悪の事態になったからだ。
…………姉が、絶命した。
「チッ……自 殺かよ。」
犯人の言葉に、涙香は拳を強く握り締めた。
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舞花 ひめ(プロフ) - 櫻色華伝さん» コメント有難う御座います!涙香くん、可愛いですよね!私もデレデレしながら書いてます(( これからも頑張って更新させて頂くので、これからも宜しくお願い致します。 (2020年1月8日 10時) (レス) id: 56c3681e86 (このIDを非表示/違反報告)
櫻色華伝(プロフ) - めちゃくちゃ面白いです!夢主(私は累-かさね-ちゃんとしてます)LOVEの涙香くん可愛すぎる!応援してます。更新頑張ってください! (2020年1月7日 15時) (レス) id: bb11e6ace8 (このIDを非表示/違反報告)
舞花 ひめ(プロフ) - ▼とあるヰ琉兎さん» 有難う御座います!頑張って更新させて頂くので、楽しんで頂ければ幸いです!▼とあるヰ琉兎さんも、頑張って下さい!応援してます! (2019年4月3日 22時) (レス) id: 95f7a369ce (このIDを非表示/違反報告)
▼とあるヰ琉兎(プロフ) - 首領の意味深な発言や芥川との関係が良かったです!!この先どう進んでいくか気になります。更新楽しみにしてます!!これからも、応援してます(´ω`*) (2019年4月3日 21時) (レス) id: ff0f774975 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:舞花 ひめ | 作成日時:2019年3月1日 7時