・ ページ3
.
この社長室を訪れた回数は、練習生の中で1番多い自信がある。怒られたり、褒められたり、理由は色々だったが。もう7年近くいるのだ。
社長に軽く頭を下げると、近くにあった椅子に座るように手だけで示された。
「呼び出しなんて久しぶりです」
「別にそう悪い話じゃないよ」
私の元に資料と思しき紙の束が滑らされる。手に取って思わず息を飲んだ。防弾少年団に新メンバーを加入させる？
「知ってるか？ そのグループは」
「もちろん」
世間的にどうなのかは分からないが、少なくともアイドルを志す者の中では知らない人はいない。
防弾少年団。きっとあと2、3年もすればトップまで上り詰めるだろうと言われている。勢いづいているこのタイミングで新メンバー。一体あっちのプロデューサーは何を考えていると言うのか。概要としてはこの業界に新たな風を吹き込むために今までとは違うアプローチを試みる、とあった。
そのまま2ページ目に移る。またしても私の思考はぱったりと止まってしまった。きっと間抜けな顔をしているのは自分でも何となく分かっている。社長が可笑しそうに小さく鼻で笑うのが聞こえた。頭の中では咀嚼し切れずに声に出してしまう。
「女性メンバーを加入させる……」
「そう。そこでお前に対して引き抜きの声がかかってる」
「は？」
もう驚きはキャパオーバーである。紙をめくった姿勢のまま動きを止める私に、社長は腕を組んでしたり顔だ。
「うちの事務所とBig Hitは長年ライバル関係だったのは分かってるな？」
「ええ」
「最近は防弾少年団の登場で差が開いているのは否めない。そんなタイミングでこの話だ」
「すみません社長。よく意味が……」
「簡単に言えばだ。お前はこのグループに加入して、解散に追い込め」
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 130人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作成日時：2023年2月7日 9時
