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自販機からガコッと小気味いい音が響く。
「さ、あと少し頑張ろうかな」
キンと冷えた缶を手に取り、私は退屈な巣へ踵を返す。
すると前方から、二つの人影がこちらへ向かってくるのが見えた。
「…え」
A、だ。
私は思わず足を止める。誰かと笑い合っている。
隣を認識した途端、鈍器で殴られたようなショックに見舞われた。
いや、落ち着け。
ここは学内だ。たまたま異性と行き会うくらいあるだろう。
背の高い、いかにも爽やかな好青年という風貌にちらりと目を向ける。なんだ。最高につまらなさそうな男じゃないか。
しかしこのまま通り過ぎることができるほど、私は大人ではないようだった。
意思と関係なく流れ出る嫉妬が抑えられない。
記憶がないなら当然だ。
私には関係ない。
当然彼女は、新しい人生を歩んでいく。
無理につらい過去を呼び起こすなんて酷だろう。
それでも私は、情けなくも自分のエゴで走り出してしまう。
胸の中で何度も彼女の名前を呼んで、息が詰まっては荒く肩を震わせて。
着ている白衣がバタバタと翻る。
今の私はきっととても醜い。こんな姿を、貴女はどう思うの。
「くそ…っ!」
ねえ、私は身勝手だ。無鉄砲なクソメガネだ。ごめん。
「A!」
どうか、私の元にいてくれ。
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匿名名無し - 綺麗な文章で読みやすかったです。新作楽しみにしています (2021年5月5日 21時) (レス) id: 9083184134 (このIDを非表示/違反報告)
べりる(プロフ) - いんこぷりんさん» 私も!いんこぷりんさんが大好きです!!こちらこそ応援してます、今度は私がいんこぷりんさんの作品にコメントしに行っちゃいますね(..*) (2020年12月2日 17時) (レス) id: d7350d4092 (このIDを非表示/違反報告)
いんこぷりん(プロフ) - べりるさん» お互い強く生きていきたいですね…!わー!そうなんですか!キュンキュンして頂きありがとうございます!(感涙)本当にべりるさん大好きです…!これからも応援してます!(*^^*) (2020年12月1日 21時) (レス) id: a01a78f710 (このIDを非表示/違反報告)
べりる(プロフ) - いんこぷりんさん» う〜〜〜温かいお言葉ありがとうございます…染み渡ります…TT いんこぷりんさんもよくぞご無事で!!(?)ずっといんこぷりんさんの作品拝見してます。どんなネタでもキュンキュンで、最っ高です…。私も久しぶりにお話しできてうれしいです! (2020年11月30日 20時) (レス) id: d7350d4092 (このIDを非表示/違反報告)
いんこぷりん(プロフ) - やっぱりべりるさんの作品は本当に最高です!私も本誌の展開でかなり落ち込んで泣いたりしてました…。なのでべりるさんの事もとても心配していました。久しぶりにお見かけ出来て良かったです!嬉しいです! (2020年11月30日 10時) (レス) id: aafc5c7127 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べりる | 作成日時:2020年5月4日 16時