人工物、あるいは人ならざる者 (ページ8)

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ジェベリアはMD社本部に戻っていた。エルシャ神はいつの間にかいなくなっている。

　今は業務外時刻のようだ。ジェベリアは壁のデジタル時計からそう判断する。他の社員や同僚は見当たらない。時間が時間だからか、社員寮に戻っているようだ。

　ジェベリアは誰もいないのを良い事に、自身の身体を軽く見てみる事にした。服のように見せかけていた皮膚をほどいて、筋繊維に飲み込ませる。ジェベリアはあっという間に全裸になった。近くの鏡で身体をまじまじと眺める。

　背中の翼を除けば、その外観は人間とまったく変わりなかった。血色の悪さはひどいが、それを差し引いても魅力的で蠱惑的な女がそこにいた。女性らしい、豊満な肢体。案外慣れたようで、ジェベリアはすっかり嫌悪感を忘れた様子でしばらく鏡を覗き、うっとりとしていた。彼女は元来ナルシストであり、自身にだけは無償の愛を向けていたのである。

　ジェベリアはふと、匂いを感じ取った。懐かしい匂いのようで、少し違うようで、けれどまさしくそれのような……形容し難いが、惹かれる匂いがした。かつてと比べ嗅覚が発達したジェベリアはそれを嗅ぎわける。それは友人、ジョン・フォルミドの匂いだった。

　ダーリンが荒れてるってエルシャは言っていたけれど、どういう事かしら。ジェベリアはそう思った。少なくとも、ジェベリアの知るジョン・フォルミドという男は、そう易々と感情的になる人物ではなかった。むしろ、理性的な男であったのだが。

　ジェベリアは胸の高鳴りを感じた。面白そうだと思うと、心臓はこんな動きをするのね。自身の新しい肉体に対してそう考えた。実際にはジョンの匂いを嗅いだ時から鼓動は激しくなっていたが、ジェベリアは気が付かなかった。

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