121話 ページ25
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A「...へ、あ.....い 五十嵐さ、」
五十嵐「...わかるんです。伊東さんのこと。」
A「...!」
僕の腕の中で彼女は息を呑んだ気がした。
僕は、そっとほんの少しだけ腕の力を強めて続ける。
五十嵐「だって、僕はずっと伊東さんのことを見てきましたから。」
A「.....へ、」
小さく笑みを浮かべながらそう言うと、腕から伝わる彼女の体温が僅かに上がったように感じられた。
五十嵐「どんな理由だったとしても、何を背負っていたとしても.....伊東さんの今の気持ちは違うんじゃないですか?」
A「...!!」
僕は微笑んで、あの時に伝えた言葉をもう一度彼女へ贈る。
五十嵐「"患者さんを助けたい".....それも、心から。」
彼女は再び涙を零した。
Aはあの時に伝えられた言葉と、今の彼の言葉が重なり合い自身へ響かせる。
...
五十嵐「僕も伊東さんも、本質的には同じじゃないですか。」
五十嵐「"患者さんを助けたい".....違いますか?」
...
僕はゆっくりと彼女を離した瞬間、今まで彼女を抱き締めていたという事実に驚きと焦りと羞恥が入り交じりキャパオーバーしてしまう。
一体僕は何をしていたんだ。
いくら安心させるためとは言ってもやって良いことと悪いことがあるのに。
心臓が爆発しそうなのを必死で抑え込み、.....いやそれすらままならず僕は慌てふためく。
五十嵐「...え、あ、あ あ ああああの、す、すみませ、いや、えっとその決して変な意味があったわけでは」
俯いたままの彼女へどう謝ればいいか困惑していると、彼女が小さく口を開いた。
A「...どうして、そんなに優しいんですか...?」
五十嵐「...え?」
僕は彼女の言葉をよく聞き取れず小首を傾げる。
すると彼女は「いえ!何でもありません!」と涙を拭い微笑んだ。
A「...五十嵐さん、本当にありがとうございます。」
なびく髪を押さえてあどけなく笑う彼女に不覚にもドキリとしてしまう。
五十嵐「...!...い、いえ...元気になってもらえたのなら嬉しいです。」
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くしゃり、と笑う彼を見て私は心を締め付けられた。
...ああ、叶うはずなんてないのに。
何でこの気持ちに気付いてしまったのだろう。
この気持ちに溺れたい。
...けれど、きっとその相手は私ではないだろう。
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奏奏奏(プロフ) - きぇぇぇぇ!!さん» ありがとうございます!これからも頑張っていきます! (2019年7月30日 18時) (レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
奏奏奏(プロフ) - レナさん» ありがとうございます!励みになります´`* (2019年7月30日 18時) (レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
きぇぇぇぇ!! - ラジエーションハウスは大好きな作品(?)なので頑張ってください!(?) (2019年7月30日 17時) (レス) id: 5d428d39a9 (このIDを非表示/違反報告)
レナ - 待ってました。これからも頑張ってください。 (2019年7月16日 22時) (レス) id: 869c734d75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奏奏奏 | 作成日時:2019年7月16日 19時