119話 ページ23
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ざあっと強い風が濡れた僕の頬を冷やしていく。
ぽつり、ぽつりと過去を語っていった彼女を一体どんな表情で見つめていたのだろうか。
A「...私は1分1秒でも早く医者になるために独学で高校卒業レベルまで学力を引き上げました。学力の定着を確認するために高卒認定試験を受け、全ての科目でA判定をもらったのは11歳の頃です。」
五十嵐「11、歳...」
A「...日本には飛び級制度はありません。ですので私はアメリカへ留学することを視野に入れ始めました。
...きっとこのことを祖父へ話したらお金は出してあげる、と言ってくれたでしょうけど私はもう迷惑はかけられないと思っていました。」
五十嵐「...!...だから伊東さんはミレニアム懸賞金問題を解いたんですか...?」
ミレニアム懸賞金問題。
アメリカのクレイ数学研究所によって発表された100万ドルの懸賞金がかけられている問題のことだ。
A「はい。...でもかなり難しくって1年程時間がかかってしまいました。」
苦笑を浮かべながら彼女は頷いた。
A「懸賞金の100万ドル...およそ1億円ですが、それを使って私はワシントン首都大へ入学しました。」
彼女はクスリと笑った後、眉を八の字にして続ける。
A「...という感じで、今の私があるんです。」
伊東さんは自身の身に起きた"悲劇"を、まるで小さな子供へ読み聞かせるような雰囲気で語り切った。
もう、僕にはわからなかった。
どんな言葉をかけてもそれが全て彼女を傷付けてしまうのではないかと思ってしまう程に、彼女は消えそうだったのだ。
五十嵐「...!!」
そんな負の思考を振り払うことが出来たのは、きっと彼女の涙を見られたからだと思う。
彼女は口元に笑みを浮かべていたが、それを否定するように瞳からはぼろぼろと大粒の涙を落とし続けた。
A「...私は、どうすれば良かったのでしょう?」
僕はその言葉に胸を痛めた。
そんな運命の悪戯がどうして全て彼女へ降り掛かってしまったんだ。
A「わからないんです...今になっても、忘れようとしても、心の底で誤診をした医師への"許せない"という気持ちが浮かび上がってくるんです...ッ」
小さく嗚咽を漏らしながら彼女は顔を上げる。
A「...五十嵐さん、どうして私が以前五十嵐さんを"眩しい"と言ったかわかりますか?」
五十嵐「...え...?」
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奏奏奏(プロフ) - きぇぇぇぇ!!さん» ありがとうございます!これからも頑張っていきます! (2019年7月30日 18時) (レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
奏奏奏(プロフ) - レナさん» ありがとうございます!励みになります´`* (2019年7月30日 18時) (レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
きぇぇぇぇ!! - ラジエーションハウスは大好きな作品(?)なので頑張ってください!(?) (2019年7月30日 17時) (レス) id: 5d428d39a9 (このIDを非表示/違反報告)
レナ - 待ってました。これからも頑張ってください。 (2019年7月16日 22時) (レス) id: 869c734d75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奏奏奏 | 作成日時:2019年7月16日 19時