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cs「Aさん?あー、そりゃ話さないことないけど、好きなわけなくない?」
真面目で優等生。愛想も良くて、世渡り上手。彼はいつも優しかった。
朝は机を拭くのを手伝ってくれるし、濡れていたらタオルを貸してくれる。無視はしないし、こんな私にも笑って声をかけてくれる。
期待も、勘違いも、していないはずだった。
その後に続く言葉はきっと、知らないほうがいいし、知られたくもないだろうから。
硬い廊下に靴下が擦れて、音すら空気を読んで。一体何を期待していたんだろう。
上履きなんて、探す必要すら見つけれない私のくせに。
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gk「あー、いたいた。かえろ、A」
埃っぽいマットに張り付いた頬に、暖かい手がふれる。制服に皺をつくる縄跳びを解いて、彼は私を抱き起こした。
痺れる指先や、固まった肩。細く跡が残った手首と太もも。そのどれもが無いように、けれど確実に認識しているから、彼は私を抱えたまま運ぶのだろうけれど。
当たり前だった生活に入り込んだ小さな歪みが、停止させたはずの思考を狂わせる。
心地いい揺れが、髪を梳かれる感覚が、全てが慈愛に感じるのに。
どこか無機質で、無頓着で、無垢だった。
否定しなければいけない何かを、擦り込まれているみたいな。
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yk「…………ごめ、ん……ゆるしてとか、いわんから」
寒いな、とか。明日制服どうしよう、とか。適当なことを頭に浮かべて、聞こえないふりをした。
男子トイレのタイルは清潔とは言えないけれど、そもそも自分自身清潔なんかじゃないんだから、別に気にすることでもないなと思う。
もう散々ホースを向けられた後なわけだし、たいして意味も無いのに。彼らにとっては、彼がそうすることに意味があるのだろうなと、片隅の理解だけ。
重たいような軽いような、そんな音と、弾けた水飛沫。乾いたシャッター音。
彼を咎める気はなかった。
全て享受した上でただ、ほんの少しだけ、ヒーローを待っていた。
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vague
あいまいな。はっきりしない。漠然とした。
ぼんやりとした。あやふやな。
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すいみん。(プロフ) - こんな夜に死ぬ程泣いてしまいました。起きる頃には目が腫れていそうです。背景描写や細やかな心情描写が繊細で儚いのに粘っこく心に残る小説でした。解像度も高く本当に言ってそうorやってそうな行動ばかりで脱帽です。無理なさらず更新頑張ってください!! (1月13日 23時) (レス) @page20 id: f12e90341c (このIDを非表示/違反報告)
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