偶然は必然だと教えてください。3《青》

早朝のいってらっしゃい ページ18

昨日の夜は酔っ払った翔太さんをうちに泊めた。

そして、今はまだ日も出ていない早朝。

寝起きの悪い翔太さんを叩き起こして、身支度をさせた。

今日は遠方へのロケ、ということで早朝に家を出なければいけないらしい。

夜明け前の廊下は冷んやりしていて

もう家の中でも靴下を履かないといけないかなあ、なんて考えるほどだ。

渡「ねえ、」

『ん？なんですか？』

渡「ん」

玄関先で両手を広げる翔太さん。

私は迷いもせずそこに飛び込んだ。

渡「…このままちっちゃくして連れて行きたいなあ」

　『ふふ、そんなことできたらいいですね。』

渡「あーー、仕事行きたくない…今日さ、目黒の撮影でしょ？」
　
翔太さんの言う通り、今日は目黒さんの特集の撮影日だ。

　 『そうですよ。翔太さんもお仕事、頑張ってくださいね？』

「うう、がんばる…」と消え方なほど小さな声が聞こえた後、首元に翔太さんの顔が埋まる。

それに応えるように、翔太さんの背中を子どもをあやすようにとんとんと優しく叩く。


ゆっくり、暖かさが離れていくのを感じた。

渡「朝早く起こしてくれてありがと。行ってきます。」

　『はい、いってらっしゃい。』


ぱたんと静かな音を立てて閉まる扉。

朝のお見送りなんて、些細なことかもしれないけど

こんな些細なことにも幸せを感じる。


　『……よし、私も準備するか…！』


けれどこの時の私は知る由もなかった。

忘れかけていた冷たい過去が、

思い出したくもない影が忍び寄っていることに。

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