□私を攫った王子様＃5 ページ5
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先輩を引き摺る勢いで走っていた気がする。隣で息を整える先輩を見てそう思うと同時に、罪悪感が込み上げた。
『はぁ、……三位かぁ』
私が一緒に行くのを渋っていたから、スタートが遅れた。でも、三位以内に入ったんだから上出来だろう。
今、一位の人が引いたカードを司会者みたいな人が本人に聞いている。ほう、メガネをかけている人、か。めっちゃ簡単じゃん。
一位以外のカード発表は、回転が大事だからカットされる。そういえば、先輩はなんのカードを引いたんだろう。
あんまり関わりたくはないけど、なんで私を選んだのかが気になる。んー、バカっぽい人とか？いやそれはないな、そういうネタ系は同級生を連れていくだろう。
………じゃあなんだろう。後輩の女子、とか？
『あの、先輩』
「っはぁ………あ、ごめん、なに？」
『あっ、私の方こそすみません』
めちゃめちゃ走らせたのを忘れていて、また罪悪感が募る。その気持ちが顔に出ていたのか、大丈夫って声をかけてくれた。なんだなんだ、顔だけじゃなくて性格までもイケメンなのか？！
「それで、どうしたの？」
『カード、何書いてあったのかなぁって思って…』
「……あぁ」
さっきまで優しい表情だったのに、急に私から目を逸らす。それに加え、白い陶器のような肌がじわ……と徐々に赤く染っていく。
怒っている様子はない。…もしかして、照れてる？なんで？？
『あの、言いたくないなら大丈夫です』
「……いや、言いたくないわけじゃないんだけど」
少しの沈黙のあと、意を決したように先輩はカードをずいっと私の顔の前に突き出した。
『………………え？』
「……からかってるわけじゃないから」
「Aちゃんだから、一緒に来てほしかった」と、さっきまでの恥じらいを一切見せることなく真剣にそう言ってのけた。
『な、なんで名前……』
「当たり前でしょ？」
そう言いながら小首をかしげて微笑む様は、あざといという言葉がお似合いだろう。
別に気になる存在というわけではない。だから、かわいいなんて思っていないし一瞬ドキッとしたのは気のせいだ。そう思いたい。でも、この時間が不思議と嫌じゃない。それはもう、先輩が気になる存在になったからかもしれない。
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作者名：ティー
| 作成日時：2022年6月10日 1時
