シルエット

３ ページ21

その後ろの席から降りて来た神ちゃんは、
俺になんか気付かへん。

船から降りて来る、
背の高い金髪の兄ちゃんに向かって、


「りゅーせー！」


大声で呼んで、駆け寄ってった。


あいつが・・・

りゅーせー。


「神ちゃん！久々！」


「りゅーせー！金髪したん？」


「おー、夏休みやしな」


「ええなあ。
俺もやりたい。
戻ったら、染め直すわ」


「ええんちゃう。
おそろにしようや。
なあ、それより、聞きしに勝るど田舎やん。
同じ兵庫とは思われへんな。
神ちゃん、大丈夫やったか？
生きてたか？」


「なんとかな。
りゅーせー、明日、海行くやろ？」


「ええな！
けど、神ちゃん、泳がれへんやん」


「俺はええねん。
りゅーせーが泳ぐん見とくわ」


「なんやねん、それ。
ほんならビーチバレーでもしよか」


「せや。
りゅーせー、俺な！
側宙出来るようなってん！」


「嘘やん！すごいな！
明日見せてや！」


「ダンス部の連中にも見せたいわ」


楽しそうで、
俺の入る隙なんか、どこにもない。


神ちゃんの嘘つき。


俺が、

あんな派手でチャラそうな、
なんならちょっと怖そうなヤツと、

絶対に仲良うなれるわけない。


二人に背を向けて、
チャリで逃げ帰って来た。

車の通られへん狭い路地に入った途端。

張り詰めてた糸が切れた。


チャリ倒して、
その場にうずくまる。


俺だけの呼び方や思てたのに。

りゅーせーにも、

神ちゃんて、呼ばれてた。

神ちゃん、泳がれへんねや。

意外やな。

かったるそうにしてても、

根っから負けず嫌いらしいて、
体育とか真剣になってやっててさ。

運動神経はめちゃめちゃええねん。

それに、砂浜で踊ってんの見た。

あんまりにも綺麗で、
俺、息すんのも忘れて見惚れててん。

神ちゃん、
向こうの高校では、
ダンス部やってんな。

ダンス部なんて、
おしゃれな部活、
ここにはない。


りゅーせーは、

俺の知らん神ちゃんを、

山程、知ってる。


多分、その神ちゃんが、ほんまの神ちゃんや。

神ちゃんにとって、

この村での暮らしは、

仮初、いや、寄り道でしかない。

４→←２

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す