じょおう ページ44
私が倒れている間に、ミカが拳銃を持ってフェリドに向かっていく。
自分を囮に、優だけを逃がすつもりだ。
でも、人間の子供が吸血鬼に勝てるわけがない。簡単に捕まって、腹に穴を開けられる。銃を持った手も千切られた。
あれは死ぬ。私もかつて、ああして殺された。
全身の骨が軋む。それでも、私に出来ることはまだある。
かつての私と同じように弄ばれる子を、今度こそ救ってあげたい。
あの時守れなかったクローリーの代わりに、今度こそ。
…だから、ごめんなさい。クローリー様。
私は剣を握る右腕に力を入れた。
ミカの血で汚れた腕が、今度は優の首を狙う。
ミカの落とした拳銃を拾い、その銃口をフェリドに向けているが、フェリドの方がずっと早い。
そうして、優の首が飛ぶ。その、前に。
フェリドの腕が宙を舞った。
「まにあった…!」
「…自分の喉を、自分でついたのか」
そう。クローリーとの約束を破って、自分で死んだ。
クローリーよりも、今この瞬間、私は優というこの少年を優先した。
フェリドと優の間に割り込んで、剣でフェリドの腕を切り飛ばした。勝負は一瞬。
「撃て!」
叫んだ瞬間、優の持つ拳銃から発砲された弾が、フェリドの頭蓋を破壊した。
弾を避けなかったことに少し驚いたが、脳を破壊されればしばらくは意識を失うはずだ。
その隙に、早く逃げてほしい。
「ミカ!ミ…」
倒れるミカに、優が駆け寄る。
無駄だ。ミカはもう死ぬ。向こうから吸血鬼たちの声が近づいてくる。
「行けよ早く!バカ!」
泣いて嫌がる優を、ミカが突き飛ばした。
そのまま、優は駆け出した。出口に向かって。家族を置いて。
「どういうことだ!フェリド様が撃たれているぞ!」
「おのれ、家畜の分際で貴族に手をあげるとは!」
吸血鬼たちが押し寄せてきた。この惨状を見て、声を上げる。
ああ、まずいな。逃げられない。
頭を撃たれているフェリドの横に立ち尽くす私のもとに、吸血鬼が何人も寄ってくる。
下級吸血鬼だけなら、うまくやれば殺しきれる可能性はある。
剣を握る手に力を入れた、その時。
「やめなさい」
凛とした声が響いた。
そちらを見れば、幼い吸血鬼の少女が、圧倒的な存在感を放って立っている。
「女王陛下」と誰かが言った。
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リリア - 最高です!!!!! (2021年8月14日 12時) (レス) id: c153dc8275 (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - ベルモットさん» 色気…!!ありがとうございます!嬉しいです…! (2020年4月19日 13時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ストリート展開や文章に色気があってリアリティーが感じられました。 (2020年3月28日 17時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - 黒胡椒さん» ありがとうございます!がんばります〜! (2020年2月19日 0時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
黒胡椒(プロフ) - 好きです!更新頑張ってください! (2020年2月18日 16時) (レス) id: e2f590a1cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さとう | 作成日時:2020年2月9日 21時