ぬるまゆ ページ39
ミカと別れてまたぶらぶらと彷徨っていると、いつの間にか庭園まで来ていた。
屋敷に併設している広い庭で、よく手入れがされていて、花も咲いている。ここの景色を眺めるのは少し好きだった。
ぼんやりと風に揺れる芝生を眺めていると、花畑の一角でむくりと白いシルエットが起き上がった。
フェリドだ。続いて、家畜の服を着た子供が首に手をやりながら赤い顔で体を起こした。食事中だったらしい。
子供は私に気がつくと、恥ずかしげにそそくさと行ってしまった。それを見送って、今も花畑の中に佇むフェリドを見る。
「フェリド。ここにいたんだ」
「や〜、Aちゃん。どうしたの?僕のこと探してた?」
「そういうわけじゃないんだけどね、暇で」
私の顔を見てにこりと微笑む美形が、私のもとまで歩いてきた。
目の前まで来た長身を見上げて、苦笑してみせる。それを受けて、フェリドもまた笑った。
「読書はしないの?」
「してたんだけど、飽きちゃった」
「そう。なら僕の部屋においで。お茶でもしながら、お話しよう」
そっとエスコートするように、手を引かれる。まるで割れ物を触るように、丁重に。
物語の騎士や王子様のようで最初はおかしかったけれど、妙にサマになっていて、今ではすっかり馴染んでしまった。引かれるまま、ついていく。
「Aちゃん、屋敷に出入りする子の中で親しくしてる子とかいないの?」
「いるよ。金髪の…」
「ああ〜、ミカ君か。いいね」
「それがどうかした?」と聞けば、「僕以外に友達いなかったらどうしようかと思って」と返された。
友達が少ないことは否定しないけど…。ミカも、友達かと言われると分からない。友達だとちゃんと明言したのはフェリドだけかも。
「友達なんて、一人や二人いればいいもん」
「あはぁ。じゃあ、僕は特別?」
「…どうかな。一番長い付き合いではあるけど」
気の抜けない相手でもある。常に警戒心を持たなければならない、信用できない友達しかいないというのはどうなんだろう。
そんな他愛のない話をして、部屋でまたお茶を飲みながらゆったりと過ごす。
ぬるま湯のような生活が当たり前になってきて、そんな生活がこれからも続くのだと、根拠もなく思っていた。
自分に優しくしてくれる吸血鬼に、いつの間にかほんの少し絆されてしまって。
馬鹿な私はそれを、心地よく感じてしまって…。
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リリア - 最高です!!!!! (2021年8月14日 12時) (レス) id: c153dc8275 (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - ベルモットさん» 色気…!!ありがとうございます!嬉しいです…! (2020年4月19日 13時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ストリート展開や文章に色気があってリアリティーが感じられました。 (2020年3月28日 17時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - 黒胡椒さん» ありがとうございます!がんばります〜! (2020年2月19日 0時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
黒胡椒(プロフ) - 好きです!更新頑張ってください! (2020年2月18日 16時) (レス) id: e2f590a1cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さとう | 作成日時:2020年2月9日 21時