ぎゅう ページ22
真っ赤になって俯いてしまったAのつむじを見下ろしていると、Aの背後にいるフェリドがこちらに何かを伝えている。
…なんだろう。見えないなにかに抱きつくように腕を動かして、こちらを指差して口パクでなにかを言っている。「やれ」?なにをだ。
しばらくフェリドとAを交互に見て、ああ、と合点がいった。
でも、やるの、それ?この子倒れちゃわない?
八百年ぶりに再会した、かつて僕のことを好きでいてくれた彼女は、これだけ長く生きても変わらず僕のことを好きなままだった。
吸血鬼になってしまった僕は、もうそんな彼女を見ても人間だった頃のように心が動くことはないが、守るべき相手、という認識は変わらなかったようだ。
だから彼女の害になることはあまりしたくないと思う。
ああ、でもフェリドの目がだんだんつまらないものを見るような目になってきた。あの顔は危ない。
大人しく従っておかないと、この子を人質に取られてまで強要されそうだ。
「…仕方ないな〜」
「へ?クローリー様…っ、!??」
観念して、一思いにAの小さな体を抱きしめた。
僕の体はあの頃から少しも変化していないが、それはこの子も一緒らしい。かつて抱いた覚えのある体を、腕の中に閉じ込める。
「な、ななななななな」
「ん〜…」
「ひゃわ、あの、クローリー様?あの、ぅ」
「…で、これで満足?」
僕の胸に顔を埋めながら、真っ赤になって震える彼女を無視して、これを命じた男の方へ視線を向ける。
フェリドは、膝を叩いて笑い転げていた。
「あっはっは!は〜、想像通りの反応!あー、おもしろい」
「えっ、な、ふぇり…!?や、その前に、むね…!あああ」
「うんうん、これだよね〜。いや、あの頃のかわいいAちゃんに戻ってくれたみたいで良かった。いい慌てっぷり…あはは」
「…そろそろ離してあげていい?」
熱をたっぷり含んだ顔で混乱しているAは、たしかに八百年前の、まだ若かった頃そのままだ。
しかしこの反応を見て笑い転げるのはいかがなものだろう。僕の腕の中にいる彼女は大真面目に混乱している。そろそろ泣きそうだった。
「はは…うん、いいよ。僕も顔を見たいし」
「も〜」
許しを得て解放してあげたAは、しばらく茹で蛸のような顔でふらふらとしていた。あと、やっぱりちょっと泣いていた。
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リリア - 最高です!!!!! (2021年8月14日 12時) (レス) id: c153dc8275 (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - ベルモットさん» 色気…!!ありがとうございます!嬉しいです…! (2020年4月19日 13時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ストリート展開や文章に色気があってリアリティーが感じられました。 (2020年3月28日 17時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - 黒胡椒さん» ありがとうございます!がんばります〜! (2020年2月19日 0時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
黒胡椒(プロフ) - 好きです!更新頑張ってください! (2020年2月18日 16時) (レス) id: e2f590a1cb (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さとう | 作成日時:2020年2月9日 21時