side敵 ページ49
カチカチと急かすような音が聞こえる。
男はバーカウンターに腰を下ろし、苛立ったように指先をカウンターに叩きつけていた。
それでは苛立ちが治らないようで、ガリガリと乱暴に首元を掻き毟る。
「こっちに引き入れる理由も方法も、全部揃ってるって言うのに…まだ手に入らない」
男が思い浮かべるのは、紫の髪と光のない瞳を持つあの少女。絶望を知っているその瞳は、何よりそちら側が似合わない現実を物語る。
あの少女は間違いなくこちら側の人間だ。そうに違いない。そう思ってもう数ヶ月が経過したと言うのに一向に計画は進みそうになかった。
「ああ、早く脳無に取り込ませないと…寿命が来たら死んじまうよ」
「落ち着いてください、死柄木弔。まだチャンスはあります。」
残された時間。そう、彼女が生まれた日まであと1ヶ月と少ししかないのだ。あの個性さえあれば、脳無はオールマイト以上の力を出せるはずなのに。
バーには男の指をカウンターに叩きつける音と、テレビから流れている小さな音量のニュースだけ。
やがてその両方の音が止むと、男はニタリと口角を上げた。
「…そうだ、最初からそうすればよかったんだ」
男はぶつぶつと何かを口にすると立ち上がって、そのボロボロの手でバーのドアノブを握った。
そしてその男が立ち去ると、バーには再び静寂が訪れる。
テレビからわずかながら、ざざ、と砂嵐のような不快な音がした。
『勝手な行動はいけないな』
聴く人の体の芯が震えるような、そんな声がテレビから聞こえる。もうその男はいないと言うのに、『声』はただ話し続けた。
その男が消えた扉に向かって言うように、ゆっくりと言葉を口にする。
『最後のチャンスだ。失敗は許されない』
………………。返事はない。
数秒して再び不快な雑音のざざ、と言う音が聞こえたかと思うと、テレビのチャンネルは先ほどのニュースに戻っていた。
残っていたもう1人の彼は静かにグラスを吹き始める。バーには彼しかいない。
「…彼女が覚醒する前に、」
残った彼が呟いた言葉は、誰かの耳に届いたのだろうか。…きっと、誰の耳にも届かなかっただろう。
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山野 珠雨(プロフ) - 梅姫美さん» ありがとうございます！これからもかっこいいかっちゃんをお届けできるように頑張ります！ (2018年9月15日 19時) (
レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
梅姫美(プロフ) - やだ。かっこいい。ありがとうございます。もう。はい。いい作品ではい。めっちゃいいとしか言えない。！ (2018年9月13日 18時) (レス) id: c23f604db7 (このIDを非表示/違反報告)
山野 珠雨(プロフ) - 桃兎さん» 返信遅くなり申し訳ありません！あなたのような優しい言葉を掛けてくれる方がたくさんいて本当に救われています。まだまだ未熟な私ですが、皆様の応援を糧に頑張ります！ (2018年8月20日 1時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
桃兎(プロフ) - 初コメ失礼します！ 私もそんな沢山評価来る様な作品あまり作れませんが、コメント、評価の通知にビビる気持ち凄く分かります！ お話凄く面白いので、更新いつも楽しみです！頑張って下さい！ (2018年8月1日 10時) (レス) id: 050cf08f0a (このIDを非表示/違反報告)
山野 珠雨(プロフ) - 苺デラックスさん» いつもありがとうございます！遅い更新になってしまいますが、最後までどうかよろしくお願いします。 (2018年7月29日 18時) (レス) id: 0e524395ac (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：山野朱雨 | 作成日時：2018年3月9日 23時
