到達できぬ高みを見たとき人は涙を流す 一 ページ9
僕は、あの人になりたい。
美しさと賢さ、可愛らしさ、格好良さ、強さも弱さも持っていて
優しく誰よりも他人を思う。
女らしく、男らしい
そんなあの人に。
あの人は――AAは、僕のなりたかった僕だ。
――
四年前、凄腕の剣士と幕府にお墨付きを受けた者が柳生家の道場に招かれた。
幕府側がその人物と九兵衛の剣戦を取り付けたのである。
『若、例の剣士が来ております』
彼の表情がどこか複雑そうな、戸惑っている様子で九兵衛は不思議そうにする。
『どうした東城?何かあったのか』
『いえ……ただ、アレが相手の方なのか、と思いまして』
『まァ、今までこちら側が指導してきた立場なのに良くやりますよね』
柳生四天王の一人である赤髪の男、
部屋には柳生一門が勢揃いしている。
九兵衛の父であり現当主の
柳生四天王の東城、南戸と眼鏡をかけている北大路斎、スキンヘッドの西野摑である。
ここまで一挙に揃っているのは、幕府から送られてきた使者へ敬意を払ってのことだろう。
少し幕府を弄るような南戸の発言に、北大路は眼鏡を押し上げた。
『幕府は余程、その「男」の腕に自信があるのでしょうね』
『わしが鍛えた九兵衛は誰にも負けんよ』
敏木斎は孫が負けることなどないと考えていた。
何しろ、敏木斎は体こそ小さいとはいえ柳生家の歴代当主の中で最強と謳われる剣豪だった。
彼が育てた九兵衛は、「柳生家始まって以来の天才」と呼ばれている。
『我が柳生家は将軍家に代々お仕えしてきた由緒正しきセレブ。大事な御方を護るために日々鍛錬を続けてきた柳生の剣に敵うものは、幕府の侍といえど出てはこぬだろう』
輿矩は猫を撫でながらも誇らしげにいう。
『いえ……違うんです』
だが、東城は深刻な顔をして彼らの発言の、ある部分を否定した。
『男でも、侍でもない……今しがた来たのは、美しくも可愛くもある女神……若い女性の方でしたよ』
『なッ!?』
東城の言葉に全員が驚き声を上げた。
『女だと……?』
九兵衛は眉を寄せて声をもらす。
幼い頃から男らしく育つよう指導されてきた九兵衛にとって、招かれた対戦相手が女というのはどうにも彼の心を乱すものだった。
到達できぬ高みを見たとき人は涙を流す ニ→←兄妹離れは なかなかできないもの 六 終
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刹那*桜(プロフ) - あいさん» ありがとうございます!! (2022年12月27日 20時) (レス) id: f89dd253f0 (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - 初コメ失礼します!! めっちゃ面白いです!! これからも頑張ってください! (2022年12月26日 19時) (レス) id: 4bcda9126d (このIDを非表示/違反報告)
刹那*桜(プロフ) - あたりんさん» ありがとうございます!! (2022年11月20日 0時) (レス) id: f89dd253f0 (このIDを非表示/違反報告)
あたりん(プロフ) - 更新楽しみにしてます!! (2022年11月14日 16時) (レス) id: c0f0373936 (このIDを非表示/違反報告)
刹那*桜(プロフ) - 花香さん» コメントありがとうございます!9個もあって長いですなか一気に読んでいただきありがとうございます!!わりと読みづらい所もあるかと思いますが好みと言ってもらえてとても嬉しいです!!(;ω;) (2022年11月7日 23時) (レス) id: f89dd253f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:刹那*桜 | 作成日時:2022年11月7日 0時