オタク、目覚める。 ページ32
寒い。
寒い、雪の中を歩いている。
草履を履いた足は冷たく冷えて赤く染まり、体を打ち付ける風がヒュウヒュウと高い音をたてて耳に響いた。
口から漏れ出る息は真っ白で、頬を伝う涙が凍るようだった。
私の足は、通い慣れた道をただ目指した。
■■さんと休んだ大きな岩を通り抜け、私が喉が渇いたと言って■■さんが水を汲んでくれた川を抜け、■■さんと鬼ごっこをした小道、脇道を抜けて、■■さんに修行をつけて貰った森を抜けた。
そして、辿り着いた。
目の前に在るのは、少しボロっちい木造の家。
ああ、寒かった。
でも、ここまで来たならもう大丈夫。
中で■■さんが火をたいて待ってるはずだ。
そして、きっと「おかえりなさい」と言って笑ってくれる。
「馬鹿な子だなあ」
視界は白から赤へと変わった。
「もうここには誰もいないさ」
「.........かっ、!!!」
体に纏わり付くものを全て振り払うかのように、音をたてて起き上がる。
体の上にかかっていた布団が跳ねて、体からずり落ちた
雪、は?あれ、なんで、私、布団の上にいるんだ?
足も体も、冷え切っていた、はず......あれ?
夢と現実の狭間で揺れ動いていた思考は、自分の荒い息遣いで一気に現実に引き戻された。
体がびっしょりと濡れていることが分かる。
握りしめていたのであろう拳は、汗で湿っていた。
悪夢を見ていた。
否、と自分の思考を振り切るように頭を横に振る。
まさか。あれは、あれが、夢であるものか。
あれは確かに現実で起こったことで。
目の前で血を流して倒れていった体も、赤黒い肉塊も、そして、人を馬鹿にしたあの笑顔も。
「っ、夢なんかじゃなかったっ......!!!!」
目から零れ落ちる涙が、布団の上に染みを作る。
「ひ、かわさんっ、!ひかわさんっ....!!!!」
後悔が、懺悔が、口から堕ちていく。
でも、その言葉を否定してくれる人は、震える体を抱きしめてくれる人は、涙を止めてくれる人は、もうこの世にはいない。いなくなってしまった。
氷川さんは死んでしまったのだ。
窓からは心地のよい風が吹いてくる。
その暖かさが、更に私の孤独さを強くした気がした。
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Stella.Ms.an - うう、 (2022年6月28日 19時) (レス) @page36 id: 44b715b917 (このIDを非表示/違反報告)
Stella.Ms.an - アッ、すみません取り乱してしまいましたいまのはわすれてくれますよねそうですよねニッコリ (2022年6月28日 19時) (レス) @page36 id: 44b715b917 (このIDを非表示/違反報告)
マイケル(プロフ) - はるさん» ありがとうございます!のんびりとですが更新していきますので、どうぞお付き合いください。景虎には醜く退場して貰うつもりなので、お楽しみに! (2020年3月21日 0時) (レス) id: ab4a955ce1 (このIDを非表示/違反報告)
マイケル(プロフ) - 雨傘さん» コメントありがとうございます!じょ、女装?!でも顔は普通に男前なので、似合ってしまいそうなのが更に腹立たしいところですね....!! (2020年3月21日 0時) (レス) id: ab4a955ce1 (このIDを非表示/違反報告)
はる(プロフ) - 更新頑張って下さい!そして景虎さんに悪の撤退を! (2020年3月14日 16時) (レス) id: de479982fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:シレア | 作成日時:2019年7月22日 22時