あ い く る し い 。

４９．期待 ページ49

．






期待させるくらいなら、いっそ、振ってしまってくれていいのに。そうすれば、私だって、いつも通りに、バカとかアホとか、そんな風に。



言い合える、気がする。のに。



なんて、そんなことを言えない私はやっぱり臆病で、弱虫で、嫌われたくないんだ、廉に。


17年間培ってきた。友情でも、恋愛でも、家族でもない。けれど、大切なこの関係に、ヒビを入れたくないんだ。






廉の居なくなった部屋は、やけに静かで。
熱を持った耳たぶに、そっと触れてみたけれど。
全然、くすぐったくなんかなくて。


なんだか、泣きたくなった。





廉が持ってきてくれたスクールバックは、当たり前だけど、教科書なんて一切入ってなくて。

廉はいつも教科書とかノートとか、丸々学校に置いていくタイプだからなぁ。なんて考えながらカバンを持ち上げた。





不意に、視界の隅を何かが舞って。
ひらりひらりと宙を踊るそれが床に着地したのが見えた。







「なにこれ、」







カバンを机の上に置いて、小さく折り畳まれたそれをそっと拾い上げる。




・・・紙？の切れ端。

なんだこれ。







随分と小さなそれを、切らさないように、そっと一枚ずつ開いていく。




やっと、広げ終えたそれに、うすーく、ぼんやりと、何か書いてあるのが見えて目を凝らした。





シャーペンで、ちまちまと書かれた文字列は解読するまでに、かなり時間がかかってしまった。







「・・・ほんとに、バカ廉、」






灰色に汚れてしまった紙には、たしかに、廉の文字で、廉の言葉が並べられていた。




心配させんな、ばーか
って、憎まれ口のあとに、殴り書きで、書かれてあったそれに、またしても、呼吸が、止まりそうになった。








彼女いるって、ウソだから








そこだけ、後から書き足されたみたいに、いっそう字が薄くて、危うく見落としちゃいそうなくらい。








・・・ウソって、どういうこと？


分からない。廉が何を考えてるのか。




分からない、けれど。
それを私にわざわざ言った、ってことは。


どういうこと？





ねぇ、廉。



・・・まだ、

期待して、いいのかな。

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