あ い く る し い 。

４８．ゆびさき ページ48

．






私の耳元についた腕に、ぐ、と力が入ったのが分かった。



いってえ、と呟きながら廉が、目を、開ける。





呼吸が、止まった。
逸らせないのは、私？廉？

・・・どちらも？






自らの体を支えていた手の、片方を、ベッドから浮かせて。そ、と。廉が、私の耳たぶに触れた。


びっくりして、息を呑んだ。
繊細で細い、指先に、全意識を持っていかれる。


くすぐったくて、どうしていいか、分からなくて。ぴく、と跳ねた肩が、なんでか。恥ずかしい。






永瀬「・・・今さら、やんな」






茶色くて、色素の薄い、その瞳いっぱいに、私を映して。

廉が、呟いた。





いまさら？

って、なんのこと？





「・・・・・・れ、ん、」







口が乾燥して、うまく声が出ない。

絡み合った視線は、解けぬまま、廉の目が、僅かに細められた。






永瀬「・・・今日、ごめん、」







そう言った廉は、本当に、本当に、苦しそうで。今日、って、あの、バスケのこと？だよね？


だったら、謝りたいのは・・・謝らなきゃいけないのは、私のほうなのに。




どうして、そんな顔するの？







永瀬「俺、テンパってて、」

「・・・うん、」

永瀬「せやから、あの・・・こくはく、のことも、」

「・・・」

永瀬「Aが、ええなら、もう少し、考えさせてほしい」

「・・・」

永瀬「・・・ほんまに、ごめん、」







ごめん、って。廉は、そればっかり。

そのごめんは、何に対してのごめん？

私を振ったこと？クラスの皆の前で、河田さんの前で、私を抱き抱えたこと？




どうして、そんな悲しい顔をするの？

私、廉に謝って欲しい訳じゃない。






「・・・考える、って、だって廉、河田さんは、」

永瀬「・・・それも、まあ、色々、」

「・・・ダメじゃん、そんなの」






バカ廉。


顔を背けて、ぼそ、と呟く。
怖いんだ。廉が、どんな顔をしているのか。
見るのが、怖い。

４９．期待→←４７．ハプニング

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す