24.宙ぶらりん ページ24
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「・・・適当なことばっか、言わないでください」
狭苦しいカウンターの下にしゃがみ込むと、いやってくらい、先輩の姿が色濃く目に映るから、私はゆっくりと立ち上がって、床に散らばったままのファイルを拾い上げた。
じっと、先輩がこっちを見ているのが分かった。これでもかってくらい、私の一挙一動をまじまじと見るものだから、なんだかおかしな気分になる。
長い髪で表情を覆い隠しながら放った言葉は、半分、いや3分の2くらいは当てつけで。廉に対しても、自分に対しても、どうしていいか分からない今の感情を、ぶつけてしまった、というのが正しい気がした。
平野「適当?」
「適当ですよ、先輩はいつだって。適当なことばっか言うから、」
平野「例えば?」
「例えばって・・・あ、ここの床。アフリカの高級木材なんて嘘ですよね?」
平野「アフリカ?・・・ああ、ブビンガのこと?嘘に決まっとるやん」
ブビンガ。初めて耳にするそのワードに、思わず逸らしていた目線を上げて。先輩を見ると。
やっぱり。直ぐに目が合った。
先輩は多分、ずっと私の顔色を伺っていたんだ。
気にするくらいなら言わなきゃ良いのに。お人好しなんだか、意地悪なのか。私は先輩が、分からない。
「やっぱり先輩は、嘘ばっかですね」
膨れ上がったファイルの向きを揃えて、カウンターの上に置き直すと。見上げるようにして私を見つめるその目が、僅かに細められたのが分かった。
平野「・・・嘘ばっか?」
ふっくりとした唇から漏れた声は、なぜか楽しげで。あ、とか、え、とか。私が出した間抜けな音は。
強く、腕を引いた彼によって呑み込まれてしまった。
引かれるがまま、まるで吸い込まれるように、前のめりに先輩の方へ倒れた体を、そっと、下から彼の腕が抱き留めて。
制服で覆い隠されていた、男らしい一面を垣間見てしまった。
「・・・わ、びっくり、したぁ、」
平野「ふふ、俺も」
「俺もって・・・先輩が急に引っ張るから、」
地面から、僅かに浮いた足に力を入れる。ほんの3センチ程とは言え、全体重を先輩に預けるには十分な長さだった。
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紀衣 - 夏(なの)さん» わーー!待っていて下さってありがとうございます!コメントすごく嬉しいです!訳あってゆるゆる更新になりますが見届けていただけたら嬉しいです…(>_<) (2018年12月12日 23時) (レス) id: afbfeebc90 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 待ってました。久しぶりの更新とてもうれしいです!! (2018年11月18日 13時) (レス) id: d826207ec4 (このIDを非表示/違反報告)
紀衣(プロフ) - 夏(なの)さん» たくさん感想ありがとうございます!すごく嬉しいです!切なさだったり、廉くんのリアルさ(笑)だったり、気をつけながら書いていた部分に気づいて頂いてすごく有難いです!拙い言葉ばかりですがこれからも応援して下さると嬉しいです!マフラーもぜひ買ってください!笑 (2018年1月14日 17時) (レス) id: cdb8449478 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - メインの廉くんが、リアルで凄いと思います!廉くんの細かい所まで表現されているし、それに出てくるボキャブラリーが半端じゃないです。とても読みやすくて…!なんかマフラー欲しくなってきました(笑)更新楽しみです。頑張って下さい! (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 初コメ失礼します!前作が気になって読ませて頂いて…とてもドンピシャリで!!Twitterもフォローさせて頂きました!最初はあいくるしい。って束縛とか、そういう系なのかな?と思っていましたが切ないお話で………きゅんきゅんと言うよりも染みると言うか…↑に続く (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紀衣 | 作成日時:2017年12月30日 20時