あ い く る し い 。

２３．重力 ページ23

．







平野「食べてあげて。かわいそうやろ？その子」

「･･･もちろん食べますよ。遠慮なく、頂きますよ」

平野「どうぞどうぞ」







ヤケになりながら口の中に放り込んだ飴玉が、舌の上でコロコロと滑り踊る。苺みるくの香りが喉を通り越して、鼻にまで伝わって来るみたいだ。





平野「おいし？」

「まあ、はい。ありがとうございます」





良かった、って。頬に溜め込んだ飴玉を左右に移動させながら先輩が笑った。



こんな無邪気な笑顔を向けられると、少しだけいじめたくなる。ドSとか、そういうんじゃなくて。小学生男子が、好きな子をからかうみたいな感覚で。


落し物ですけどね。そうやってわざと、皮肉をぶつけると。先輩はほんの一瞬、目を丸くして。でも、直ぐ。綺麗な曲線を描いた二重が深くなる。







平野「人間は、重力には抗えへん生き物やからな。落ちてしまったもんは、しゃあなし、やろ」







まるで、心をなぞられたみたいだった。


既に手の届かないところまで、落ちてしまったものを、必死に浮かそうとして。空気を、気持ちを、抉ってしまった。私だと、言われているみたいだった。





どうしてこうも、タイミングが悪いのか。

先輩はいつも、私に足りない言葉をくれる。


テストの成績が悪くて落ち込むでいた時。なっちゃんと喧嘩をしてしまった時。私はここでは、何も言わなかった。言いたくなんて、なかった。



それなのに、先輩はいとも簡単に、私のそういう、意地、みたいなものをぶち壊す。



他人に興味なんてなさそうな顔をして。見られていたのかな。だとしたら、悔しい。



ここでは、忘れているつもりだった気持ちたちが一気に溢れ出しそうになるから。
悔しいんだ。

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