22.苺みるく ページ22
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平野「・・・あったぁ!」
ガタン、と何かが崩れるような物音がして。カウンターの下からひょっこり、平野先輩が顔を覗かせていた。
「・・・何してるんですか?」
荷物を机に置いて、その隣に座ると。にこにこ笑顔の先輩と目が合う。
床には、先輩が顔を上げた衝撃で、貸し出し状況を記したファイルが数冊落ちていた。
縦向きに木目の入った床は、アフリカ原産の世界一有名な木材だって。いつか、かなり前、先輩はそう言っていた気がする。
もちろん、嘘だろうけど。
先輩の嘘はいつだって、良くも悪くも棘がないから。子供のイタズラみたいな感覚で受け止めることが出来る。
平野「A。手、出して」
「・・・手?」
唐突な言葉に、思わず聞き返すと、真っ直ぐにこっちを見つめる先輩がうんうんって首を振る。
しゃがみ込んだまま、左手を差し出すと、向かい合わせに座った彼が対角線上に位置する方の手の平を私へと向けて。そのまま、強く握られた。
「・・・え?」
平野「手、開けてみ?」
ぐ、と掴んだかと思うと、数える間もないくらい、急に、指先は解かれて。恐る恐る開いた手の平の中には、小さな飴玉がひとつ、転がっていた。
少しだけしわくちゃになった包み紙には、薄ピンクのドットがあしらわれていて。食べるのを躊躇ってしまうくらいにかわいい。
平野「飴っこ。Aにあげるよそれ」
「え・・・いいんですか?こんなかわいいの」
包み紙のシワを広げながら聞くと、先輩はまた、何度も頭を縦に振りながらながら笑って。
平野「気にせんで。それ、落とした方やし」
そう言いながら、何の気なしに、胸ポケットに手を突っ込んだ。
まるで、クレーンゲームみたいに釣り上げられた手の中に、私が今持っているものと色形同じものが何個も詰め込まれているから、思わず笑ってしまう。
平野「いっぱいあるから」
「えー・・・落とした方くれるんですか?」
平野「落とした?・・・いや、そいつ、自分で落ちていったんやで?俺よりAに食われる方嬉しいんやって」
年上のくせに。なんて子供じみた言い訳をするんだこの人は。デタラメなことを言っている筈なのに、こちらに有無を言わせないような態度は当たり前の如く健在で。
なぜか、私が悪いことをした気分になる。
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紀衣 - 夏(なの)さん» わーー!待っていて下さってありがとうございます!コメントすごく嬉しいです!訳あってゆるゆる更新になりますが見届けていただけたら嬉しいです…(>_<) (2018年12月12日 23時) (レス) id: afbfeebc90 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 待ってました。久しぶりの更新とてもうれしいです!! (2018年11月18日 13時) (レス) id: d826207ec4 (このIDを非表示/違反報告)
紀衣(プロフ) - 夏(なの)さん» たくさん感想ありがとうございます!すごく嬉しいです!切なさだったり、廉くんのリアルさ(笑)だったり、気をつけながら書いていた部分に気づいて頂いてすごく有難いです!拙い言葉ばかりですがこれからも応援して下さると嬉しいです!マフラーもぜひ買ってください!笑 (2018年1月14日 17時) (レス) id: cdb8449478 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - メインの廉くんが、リアルで凄いと思います!廉くんの細かい所まで表現されているし、それに出てくるボキャブラリーが半端じゃないです。とても読みやすくて…!なんかマフラー欲しくなってきました(笑)更新楽しみです。頑張って下さい! (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 初コメ失礼します!前作が気になって読ませて頂いて…とてもドンピシャリで!!Twitterもフォローさせて頂きました!最初はあいくるしい。って束縛とか、そういう系なのかな?と思っていましたが切ないお話で………きゅんきゅんと言うよりも染みると言うか…↑に続く (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紀衣 | 作成日時:2017年12月30日 20時