あ い く る し い 。

２．彼女 ページ2

．






「クリスマスやな、廉」





駅前通りの縁石の上を、バランス良く歩きながら、隣を見た。高さ20cm程の石が、私と彼の目線を水平にする。




ほんの僅かにこちらを見た廉が、スリープ状態のスマホを起動しながら笑った。

ついさっきまで、あれだけ冬に嫌悪感を示していたのに。クリスマスは、世界共通の魔法の言葉だ。


こんなにも、彼を魅力的にするのだから。




伏し目がちな瞳が、ブルーライトに照らされて白く光っているように見える。綺麗だな、なんて。

今まで、幾度となく思った言葉は、ゆっくりと喉を滑って消化されていく。


蓄積なんて、しない。させないようにしてきた、想いと一緒に。




永瀬「クリスマスかぁ、」




ぼんやりと、冬の寒さに溶け込んだ言葉に、何度か瞬きをした。

目が、乾燥する。
それくらい、今の私には、彼しか見えていない。何もかも、なんて。大袈裟かもしれないけれど。


それくらい、廉だけだったんだ。








永瀬「なんかさ、俺。
･･･彼女できた」








真っ白な吐息が、渦を巻いて。

消えた。



思わず止まった足取りに、廉の歩幅も次第に狭くなって。立ち止まった彼が、振り向いた。





どしたの？なんて。悪戯っ子みたいな笑みを零す廉は、やっぱり、何も知らなくて。

当たり前だけど、本当に、なにひとつ、気付かないんだな、って。






不意に、目の前を霞めて行った白に、泣きたくなった。





こんなにも、好きだったなんて。

今更、気づきたくなかったんだよ。本当は。

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