赤と黒のLiberations6

【優しさ】11　☆ ページ36

『俺のスケートが完成して、現役をやりつくしたら…。一回仙台でデートしよ。』

「……。」

デート…。しかも仙台ってことは、二人の地元でもあり日本でもあり…というか日本！

『嫌なの…？』

「嫌じゃない！断じて嫌じゃない！！」

言葉を失っていると、羽生くんからマイナス思考なセリフが飛んできたので、即否定する。

ど、どうしよう…嬉しすぎる！
実現するしないは別にして、想像するだけで一気に幸せ度が増した！
ひょっとしたら私、彼にすごく愛されてるのだろうかとさえ思ってしまう。

『そっか。なら良かった。』

一人悶えていると、安心したように小首をかしげる羽生くんの狐耳が…。

「あっ、羽生くん！」

『ん？』

私が慌てて呼んだから、羽生くんが目をきょとんとさせる。
だって今…。

「ちょっと耳が消えた！」

『え？』

頭に生えた狐耳が、ゆらゆらと陽炎みたいに、まるで炎が消える前のごとく揺らめいたのだ。

「本当に、すーって…。」

『適当なこと言ってんじゃねぇだろうな。』

「言ってないよ！今だって…あれ？」

携帯の画面に向かって指を差すのだけど、耳は元通り羽生くんの頭にしっかり生えている。

『あー分かった分かった。慰めもほどほどにしねぇと怒るよ？』

「……。」

おかしいな…見間違いだったのかな。私は差した指を自分の唇に戻して首をかしげる。
現に羽生くんは全く信じてなさそうだ。

『じゃそろそろ切るわ。』

そんな狐に摘ままれた気分の中、そろそろお別れの時間になってしまった。

「あ、待って。」

『何？』

でも私は、どうしてもさっきの言葉を再確認したくて、思わず彼を呼び止める。

「さっきの仙台デートの話、前向きに考えててもいいんだよね？」

『あぁ、勿論。でもいつになるか分かんねぇよ？』

「いいよ！」

羽生くんの口から聞けたことが何より嬉しいのだから。

『そっか。じゃあまたな。風邪引くなよ。』

「うん、羽生くんもね。」

別れ際、笑顔の羽生くんにいつも癒されているものの、今日はなんていい気分なのだろう。
希望のある言葉がこんなに大事だなんて知らなかった。

『バイバイA、えっと…好きだよ。』

「ありがとう…。」

画面越しだけど、私も同じ気持ちだよ。と携帯に向かって手を振った。






.

【結婚とは】1　★→←【優しさ】10　☆

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す