赤と黒のLiberations2

【Ｔシャツ】7　★ ページ7

「さ、もう行くから帰って。またサボり？」

「違うよ！今から次行くんだよ。じゃあおばさん、またのご注文をお待ちしてまーす！」

そう言ってコウくんが車で去っていった所で、ようやく花山さんが運転席に乗り込んできた。

「ほんと子供でしょ？同い年とは思えない。」

シートベルトをしながらあきれたように言う。ということは、俺とも同級生か。

「いいんじゃない？楽しそうな人じゃん。」

「そう？…まぁ悪い人じゃないんだけど。」

エンジンをかけて、外にいるご両親と話すために窓を開けた。

「じゃあちょっと行ってくるね。」

「あ、待ちなさいA。」

すると不意にお母さんが花山さんを呼び止めた。何かなと思ってなんとなく見ていると、さっきコウくんから受け取った蒲鉾を窓の外から差し入れた。

「何？」

「これ羽生くんに。今からご実家でしょ。ぜひ召し上がってください。」

「え。」

てっきり花山家用だと思っていたので、間抜けな表情になる俺。

「エッグタルトのお礼よ。一応老舗だから。」

はい。と花山さんに手渡して、俺に回ってくる。

「そうね。羽生くん、持って帰ってね。」

「いいんですか。」

「遠慮しないで。」

そう言われては、受け取らないわけにはいかないので、ここはありがたく頂いておく。

「ありがとうございます。」

「じゃあ行ってきまーす。」

蒲鉾を膝に置いたら、車がゆっくりと走り出した。





ナビによると、花山さんの神社から実家まで、約４０分ほどで着くのだが、途中、高速道路を通らないルートを選んだらしく、本来の到着予定時刻からおよそ１０分のロスで目的地に着く予定になった。

「高速くらい乗れよ。」

「嫌よ！平日の午前中はトラックと社用車がいっぱいで怖いもん。」

「使えねー…。」

「たった１０分くらいで文句言わない。」

たった１０分だと？フリーなら２回滑ってお釣りがくるぞ。

ふと、窓の外を眺めながら、今回の仕事を終えたらすぐに日本を発つ予定なのを思い出す。
こうやって気軽に親以外の人と日本語で話せるのも、あとちょっとだけだ。

【Ｔシャツ】8　★→←【Ｔシャツ】6　★

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す