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どこか気まずい雰囲気のまま2人とも廊下の角で立ち尽くす。次に紡ぐ言葉を選んでいる最中、Aは俺の手の中にある仮入部の用紙を見て『まだ野球続けてるんだ』と口にした。
「せやな、何やかんやずっとやっとうわ。Aも仮入行ってきたん?」
『いや、私はクラスメイトの付き合いでちょっと寄っただけで部活は入らないつもり』
「へー、バイトでもするん?」
『んー…多分?』
また濁される。こんなにも不透明なやつやったかな。…やっぱり、あの時の事が軛になっているんやろうか。
柱に寄っかかって髪を耳にかけるAを横目で見る。女の子って、こんな変わるもんなんやな。変わりすぎて正直絡み方が分からへん。
『シャオちゃんは何組?』
「3組やで、Aは?」
『1組。そりゃ会わないねぇ』
「あぁ、使う階段逆やもんなぁ」
無難な話。話し方も、身の振り方も、見た目も、顔は面影があるとはいえ本当にあのAなのかと懐疑心が治まらない。
春の柔らかな風と夕焼けがAの髪に当たり、透けるように細い髪の毛がふわふわと毛先を揺らしている。眩しさによって細められた目元に睫毛の影が落ち、ぷっくりとした唇は仄かに色が乗っていて薄紅が滲んでいる。
……あかん、普通に可愛い。けど、違くて、俺の知っとるAはこんなんちゃうくて、でも、
「あーー!!こんなとこに居ったんかーー!!!」
反響するほど大音量で叫ばれた声。後ろを振り向いて声の主を探すと、走りながらロボロが俺のことを指指していた。
「うっせーな!!…あれ、声聞こえてんけど見えへんな」
「目の前に居るやろがい!!お前何回電話したと思ってんねん!!」
目の前で地団駄を踏んでぷんすこ怒るロボロの言う通り、ポケットに入れたままやったiPhoneにはロボロからの不在着信が何件か来ていた。待ち合わせを完全にブッチしていたことを思い出して平謝りをする。それどころやなかってん。
ロボロはいつの間にか俺の背後に隠れていたAを見つけると、メデューサに見つめられたか如く石になって固まった。クソ雑魚童貞乙。
「あーあ、Aがビビっとうやんけ」
「あ、す、すいません……」
『い、いえ』
「はいこいつロボロ、チビ。こっちA、俺の幼馴染。はいもうお友達」
『適当すぎ』
「誰がチビやねん!!……っていうかお前、幼馴染居ったんやな」
まぁな、と適当に相槌を打つと、Aは困ったようにへにゃりと笑った。
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悠亜(プロフ) - すずらんさん» コメントありがとうございます!有難いお言葉光栄です……あまり派手な話ではないですがこの後もいろいろと2人の心境に変化が現れますのでそちらも是非見て頂けたら嬉しいです!ありがとうございます! (2020年2月28日 9時) (レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
すずらん(プロフ) - 何から言ったら良いのかわからなくて乱文になってしまうのですがコメント失礼します。好きです。心理描写がとても繊細で手に取るように分かりやすくて好きです。応援させてください… (2020年2月27日 9時) (レス) id: 14859b81d2 (このIDを非表示/違反報告)
悠亜(プロフ) - ユヅルさん» 前作からありがとうございます!前作との差分化を図るのが難しいですが、こちらもこちらで楽しんで頂けると幸いです!ありがとうございます! (2020年1月19日 18時) (レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
悠亜(プロフ) - さいさん» コメントありがとうございます!中々微妙な距離感ですが、どう近付いていくんですかね。私にも分かりません。嬉しいお言葉をたくさんありがとうございます!気長にお待ちください! (2020年1月19日 18時) (レス) id: eb2dbc11ad (このIDを非表示/違反報告)
ユヅル(プロフ) - わああああ!!前の作品も見させていただいてました…!!!相変わらずの文才…ほんとに尊敬します…!!更新頑張ってください!! (2020年1月19日 18時) (レス) id: 0f65930547 (このIDを非表示/違反報告)
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