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「智君はニノにご執心だねぇ｡
いくらニノが
おれも空になった湯呑にまたお茶を注ぐ｡
湯呑の中で揺らぐ綺麗な緑を一口飲んで、感情の読みとれない鳶色に笑いかけた｡
｢まさか温和なあなたが、例え一瞬でも格下相手に本気になるなんて｡
あの時｡
もしおれが止めてなかったら、あなた本気で潤の鼻を削ぎ落していたでしょ？｣
そう、あの時から｡
久し振りの再会を果たしたあの時から、堪らなく不思議だった｡
｢あんだけ好きだった絵なのに｡
おれが知る智君なら、とっととニノを食べて百鬼夜行を成功させて｡
すぐにでも大天狗様のとこに戻って、封じられた右手を解放して貰ってる｡
でも今の智君はそれが出来るのに敢えてそうしない｡
ニノの傍らで、守護者としてあの子を守り続けてる。
確かにニノはいい子だよ？
でもそれだけじゃ、今の智君の行動をおれは理解できない｡
どうして？
なんでそこまでニノにこだわるの？
『人間と関わるのは二度とゴメン』だったんじゃなかったの？｣
“二度と関わりたくない｡”
初音が死んだあの時、智君は振り絞るようにそう言ったのに｡
詰め寄ったおれに智君は溜息交じりに笑った｡
｢今日の翔君は、お喋りの知りたがりだな｡｣
コトンとテーブルに湯呑を置く音が響いて、
智君は首に下げていた濃紺の守り袋を懐から取り出した｡
｢これ…ビー玉？｣
袋から出して、智君が見せてくれたのは青いビー玉｡
昔よく見かけた、ラムネの瓶の中でカラカラ音を立ててた
青くて小さな気泡が幾つも入ってるヤツ｡
｢違うよ、水の星の欠片｡｣
｢はっ？
どう見てもビー玉でしょ？｣
智君は掌の上で光る“水の星の欠片”を見て、
何かを思い出したように幸せそうに微笑む｡
｢５歳だったニノに貰った｡
俺達から見れば単なるビー玉だけど、あの頃のニノにとっては間違いなく夜空に輝く星の欠片｡
あの子が一番大切にしていた宝物だ｡
俺には青い色した水の星の欠片がよく似合うんだと｡｣
｢智君？｣
真顔になった智君が手の中のビー玉を握りしめる｡
｢このビー玉は俺が生まれて初めて誰かから貰った大切なもの｡
今は俺の宝物だよ｡｣
智君の鳶色が何処か遠くを見つめる｡
風に揺れる欅の緑がサァ…と音を立てた｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
