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｢翔…、智……
私の最後のお願い…聞いてくれるかしら…？｣
白い布団をそっとかけたおれに、初音の鈴を鳴らした様な声が響く｡
｢白木蓮が…見たい…の｡
まだ小さかった頃…、一度だけ…お父様に抱かれて…見たことがある｡
おおぶりの…真っ白な木蓮の花……
どうしても…見たい、の……
それが最後…
そしたら…解放…してあげるわ……｣
艶やかな黒髪を撫でつけて、おれは初音の耳元で囁いた｡
｢初音……｡
まだ木蓮の花が咲く季節じゃない｡
悪いけどその願いは…｣
｢………分かった｡｣
おれの言葉を遮った智君は
ただ涙を零す初音に大きく頷いて見せた｡
｢必ず届けてやる｡
だから俺達が来るまで、……待ってろよ？｣
｢えぇ……、いつもの通り……
待ってるわ……｣
嬉しそうに智君に笑いかけた後
闇に引きずり込まれていくように、初音は意識を手放した｡
頬を滑り落ちた涙を拭ってやった後おれが顔を上げると
｢………智君？｣
黒い羽根がふわりと一枚風に舞うだけで
智君の姿は何処にもなかった｡
・
｢智君…、あれから何処に消えたんだか｡｣
新月の夜になると必ず初音の元へと向かっていた時間｡
｢ここにいるよ｡｣
智君は何事もなかったように、おれの前に姿を現した｡
鈴なりに咲く真っ白な木蓮の花を
繊細な印象のその手に携えて……。
｢ソレ…、何処で咲いてたの…？｣
おれの質問に、智君は答えようとしなかった｡
おれも智君に、それ以上聞こうとはしなかった｡
雪が舞うこの時期に何処を探し廻っても
木蓮の花が咲いてないことくらい
花の知識がないおれだって知ってる｡
でも、智君は丸一日おれの前から姿を消して
今、初音が望んだ通り、木蓮を手にしてる｡
｢御苦労さま｡
初音、きっと大喜びするよ｡｣
｢うん……｣
それが本物の白木蓮か｡
それとも智君が、自分で描いた木蓮を法術で具現化させたのか｡
そんなこと、どっちだって構わない｡
大して重要なことじゃない｡
眼の前に智君がいて、白木蓮を携えてる｡
今はそれが一番大事なこと………｡
智君の手に握られた木蓮の花は
おれが知る今まで見たどの木蓮より、瑞々しく美しかった｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
