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｢なっ……!
なんだよ!!
いくら自由を奪われてたとしても、女の子にそんな言い方しなくたって…！
なんかオレ…、智のこと見損ったよ…
サイッテーだな…!｣
薄茶の瞳に滲む憤りの色｡
決して自分には浴びせられない、智君の冷淡な言葉に戸惑ってんだな｡
ニノ、智君が初音に冷たい言葉を浴びせたのにはね｡
それなりの理由があったんだ｡
｢あのね、ニノ｡
初音は体が弱かったんだよ｡
長く生きられる体じゃなかった｡
……何も言わなかったけど、初音も自覚してた｡
もう…、そう長くは生きられないだろうことを｡｣
「えっ？」
｢……降魔の術は熟練した陰陽師でもかなりの体力を使うし｡
体の弱い初音にとって、おれや智君の妖気に晒されること自体、命を縮めることに繋がる｡
智君はわざと冷たいことを言って彼女を遠ざけようとしてたみたいだけど、初音は決しておれ達との逢瀬をやめようとはしなかった｡
庭先にさえ殆ど出る事がなく、寝所が世界の全てだった初音にとって、おれ達との時間が唯一、『外の世界』を感じられる時間｡
特別な時間だったんだよ……｣
｢…………｡｣
自分よりも年齢の低い女の子がそんな状態だった事が
ニノにはショックだったのか、声を失ってる｡
｢……初音はそんな体だったけど、自分の父親と同じくらいの男との婚儀が決まってた｡
顔も見たことない男とのね｡｣
｢なんで？
まだ13歳の女の子だろ!?
結婚なんて年齢じゃないし、そんな体が弱いのに父親ぐらいの男との結婚なんて…｣
｢……その頃は13で許嫁がいること自体は普通の事だよ｡
初音の母親は天皇家の血筋｡
家柄のいい娘は、家の為の結婚をしなくちゃならない、そんな時代だったんだ｡｣
｢……そんな｡｣
｢だからこそ初音は余計、おれ達との時間を手放せなかったのかもしれないな……｣
・
五条の橋の上に冷たい北風が吹き抜ける頃になると
初音は起き上がることもままならないくらい弱り果てていた｡
それでも初音はおれ達との逢瀬をやめようとはしない｡
部屋いっぱいのどんぐりが欲しい｡
真っ赤に色づいた紅葉の葉に埋もれて眠りたい｡
紅色のさざんかが見たい……｡
その頃になると、
智君から花や木の実を受け取るたびに薄桃に色づいていた頬は青白いままで
元々白かった肌も透き通るようなソレへと変わり
嬉しそうに浮かべていた笑みは、止め度もなく零れ落ちる涙へとかわっていた｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
