04.唾つけたのは俺だから｡/N ページ31
潤君が作ってくれた卵スープが優しい香りをキッチンに振りまく頃
智が優雅な足取りで二階から下りてきた｡
作務衣着ていつもよりずっと引き締まった表情｡
智、多分絵を描いてたんだ｡
｢おはよ、智｡
もうじき朝ごはん出来るから｡
なに？
なんか行き詰ってんの？｣
｢ん〜、そういうわけじゃないけどさ｡
天井画お願いされてるお寺の住職さんと、なんとなく仲良くなっちゃってさ｡
傷んだ掛け軸があったから今直してあげてるんだけど、なかなかいい絵で｡
夢中になり過ぎて、思わず完徹しちゃった｡｣
ガス台の前でスープの味見してるオレに、智は後ろからむぎゅーって抱きついてくる｡
｢おはよ、ニノ｡
ん〜、さすが俺の
ニノっていつも凄く甘くていい匂いがするよね｡
はぁ…、この香り癒される〜〜｣
うなじにすりすり鼻擦りつけて、智はすぅ…とオレの匂いを嗅いだ｡
｢だ・か・ら!
朝から鬱陶しい!｣
コイツが烏天狗の智｡
４人の中で桁違いに強いらしい｡
潤君相手に一瞬見せた『本気』にオレも鳥肌が立った｡
智は『絵を描く力』を鞍馬山の大天狗に封じられていて
それを取り戻す為に百鬼夜行を成功させなきゃならない｡
その為にオレが必要不可欠なんだ｡
｢確かに甘くていい香りだよな……
この肌の匂いだけでも惹きつけられるよ……｣
彫刻みたいに綺麗な顔が急に近付いてきて
後ろから智に抱きすくめられてるオレの頬を潤君の鼻頭が掠めた｡
｢へっ？潤、君？｣
｢……マジで魅せられちまう｡｣
バチッと眼が合った潤君の瞳は
オレの血の匂いを嗅いだ時とおんなじで何処か夢見心地……｡
マズイマズイマズイマズイ!!!!
智に勝つまでオレのコト襲わないって言ってたけど
あの眼、ちょっとマズイんじゃね!?
妖しい眼光に心臓がバクバクして体が硬直する｡
｢じゅーんー｣
身動きの取れないオレの体を後ろから引き寄せるように抱くと
抑揚のない智の声が潤君を制した｡
｢オカシイなぁ〜｡
教えてあげた筈なのにもう忘れちゃった？
……ニノの全部は俺のモンだ｡
一滴の涙だって他のヤツにやる気はねぇ｡｣
智の低音を聞いた瞬間
まるで夢から醒めたように我に返った潤君は、
尻尾を丸めオレ達から飛びずさった｡
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作者名：あさり
作成日時：2014年6月17日 23時
