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恵からAの近況は聞いていた。以前喧嘩じみたことをしたとも聞いたし、Aの覚悟についても聞いた。それを恵はどこか悔しそうに話していて、彼の成長とも取れる変化を素直に面白いと感じた。けれどその話を聞いた時に危うさも覚えた。恵に、というより目の前にいる彼女に対して。
「……別に何も変わりありません」
わざとらしいくらいに自分との目線を外して、少し強ばった表情をしたA。口では変わりないと言うが、纏う空気がそれを否定してた。六眼で見るAの呪力。以前は光が体の中に立ち込めているようだった。その光は今も健在ではあるが、やや弱まったように見える。いや弱まったというより、何かが混ざり込んだようなもの。……悪い予感というものは得てして当たるものである。
かちかちとリビングに秒針の音が響く。時折麦茶の中の氷が溶けグラスにぶつかる音がしている。整頓されたリビングは目の前に座るAによく馴染んでいた。Aの両親は健在だがAが呪術師まがいのことをしているのは知らないらしい。小さい頃に幽霊が見えると言っても信じて貰えなかったのだと初めて会った時にAから聞いた。それでも両親との仲は別に悪いわけでなく、ごく普通の、世間で言う一般的な家庭だと何となく察していた。家は綺麗に片付いているし、客人にお茶を出すというしっかりとした教育もされている。何より自分や恵に会う前から呪霊を祓っていたその動機からAは極めて健やかに育ってきたことが窺えた。
頭の隅に押しとどめていた嫌な記憶が薄らとこちらを向いている。一般家庭の出で、真面目に育ち、真面目すぎた故に目の前から消えていったものを。今のAを見ていると少し昔の、後悔に耐えない記憶が蘇る。ふつふつと胸の奥に沸き立つ違和感を否定したくなった。二度と同じ過ちは繰り返さないために。
今でも変わらず彼女はここにいるのか。『みんなの言う負の感情がなくなるなら』そう言った彼女の言葉が、彼女自身を飲み込むことなく。
「聞き方を変えようか、Aは何のために呪霊を祓うの?」
「え……」
「前に聞いたけどさ、呪霊を救うため?減らすため?……動機は変わってない?」
「……どうしてですか」
怪しげに目を細め、喉の奥で小さく震えた声はか細く彼女の存在をちっぽけにする。彼女の中にある光が風に吹かれた蝋燭の火のようにぐらりと揺れる。
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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません💦 (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時