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湯船につかり、ただほーっと水面を見ていた。この所呪霊を祓う度に胸の奥が冷たくなる感覚がしていた。けれどそれは一時的なものに過ぎず、光の粒は変わらず私に安堵を与えている。たった一度図書室で呪霊を利用したあの時だけ、光は私に虚しさを残した。あの時はクラスメイトの声と、自分の中に広がる冷ややかな感情をかき消したくて呪霊の意思を利用してしまった。
胸の奥が冷たくなる理由に何となく目星はついていた。私の中に負の感情が積み重なっているからだろう。だからこそ、この前も恵くんは私に「見失うな」と言ったのだ。
揺らぐ水面から天井へ視線を向ける。白い靄が視界に広がっている。お湯は自分の体温と同じくらいに冷め始め、自分との境を曖昧にしていた。
彼は偽善を嫌っている。この世の中から呪霊が減り、嫌な思いをする人がいなくなるならという私の行動は彼の中の偽善に当てはまる。だけど、いつかその偽善に殺されるとしても私にとってそれが生きる意味になっていた。
ぱしゃりとお湯が音を立てる。自分を見失うな、恵くんの声を自分の奥底に刻みつけるように頭の中で繰り返す。負の感情に飲み込まれないように私の意思を見失ってはいけない。私は呪霊を救い、負の感情を減らす。呪霊が存在する限り、私はその負の感情の受け皿になる。
「間違ってない、……私は間違ってない」
この力をもって生まれたのなら、それが私の役目だから。私の存在意義であるから。例え私は恵くんの嫌いな偽善者だとしても。
呟いた声は浴室に小さく響き、体の中をぐるぐる巡っている。積み重なっていく負の感情が自分の体温みたいに、このお湯に溶け出していけばいいのに。そうしたらきっと胸の奥の冷たさもなくなって私は永遠に呪霊を祓うことができる。恵くんに心配をかけることも、偽善だと嫌われることもなく。
ぷる、と体が震えた。私は浴槽から体を起こし、1度シャワーを浴びた。浸かっていた時よりも熱いお湯が頭の上から降りかかり、少しだけ肌が痛い。
私の限界はいったい何処なのだろう。胸の奥が冷える感覚はいずれ私を蝕んでいくのだろうか。そうなってしまった時、私を殺してくれるのは。
「……恵くんがいいなぁ」
あの力強い瞳で私を射抜くように、彼ならきっと私を殺してくれる。彼は私なんかと比べ物にならないくらい、呪術師であるから。私が殺してくださいと言ったら彼はいったいどんな顔をするのだろう。……少しばかり悲しんでくれるのだろうか。
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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません💦 (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時