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あるアパートの一室。五条さんから提示された任務を私は請け負っていた。五条さんと恵くんはアパートの外で待機している。所謂事故物件だ。
部屋に入った途端、ぞくりとするような冷たさが体を包んだ。呪霊は部屋の隅で何かをぼそぼそと呟いている。私を認識すると呪霊は人の手のようなものを私に向けて伸ばした。案件としては3級レベルだったはず。私は右手を持ち上げ、伸ばされた手に自分の指先を触れさせた。
借金に追われ無理心中する家族の映像。口元は笑っているのに泣きながら私に刃物を向ける母親らしき人。ごめんね、そういった気がして私の胸には刃物が突き刺さり、どん、と押された。『どうして』そう口を開こうとした、次の瞬間、視界は光でいっぱいになる。刺されたような感触がした胸には当然の如く傷ひとつない。指先で胸元をなぞる。架空の傷口から冷たい空気が入り込むようだ。包まれていた光が消える、それを確認してから部屋を出た。
「お疲れ様、問題ない?」
「五条さん……はい、大丈夫です」
隣に立つ恵くんはちらりと私を一瞥する。彼の目に今の私はどう映っているのだろう。胸の奥にある冷たさを抑え込むように下をむいた。五条さんはふっと笑って「それじゃあ行こうか」と車の鍵を指で回しながら足を進めた。私も追いかけようとした瞬間、肩にぽんと軽い感触。その重さで私の足はピタリと止まる。私の肩に手を置いた恵くんは私を追い越して、耳元で小さく呟いた。
「見失うなよ。忘れるな」
呼吸が一瞬止まる。恵くんは振り返ることなく私の前を歩いていく。彼の言葉が頭の中に反響する。先へ進んでいた五条さんが振り返った。私は止まっていた足をもう一度動かす。踏み出した足に触れた地面が、足の裏に吸い付くようで私の歩みを邪魔しようとする。
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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません💦 (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時