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「あー、もう」
がしがしと頭をかいて恵くんは私に視線を向けた。
「もうどっちだっていいけど、さっさと姉貴はAを離せよ。暗くなんだろうが」
「あ、ごめんね。そうか帰るところだったもんね」
そう言って津美紀さんは私の手をもう一度とり、恵をよろしくね、と呟いた。よろしくされるのは私の方なのだが、私は小さくはい、と答える。本格的に暗くなる前にと恵くんは心配してくれたのかもしれない。
「ありがとう……。お邪魔しました」
そういって2人にお辞儀をする。伏黒くんは私を一瞥して何も言わずに家の中に消え、津美紀さんは手を振りながらゆっくりとドアを閉めた。
パタリと閉まったドアの音を聞いて振り返る。空を見上げると徐々に暗がりが広がっていた。足元の靴はまだ少し濡れている。濡れたアスファルトの上を少しだけ足早に帰路に着いた。めぐみ、音にならないほどの小さな声で呟いてみる。暖かくて、本当にいい名前だと思う。
。。。
Aが帰った後、姉貴はにやにやと物珍しそうに俺に視線を向けた。
「女の子のお友達ねぇ」
「友達でもねぇよ」
「でも家に上げるくらいなんだ」
俺は姉貴を睨みつけて自室へと足を向けた。姉貴は俺の反抗なんか何とも思っていないようで楽しそうに鼻歌を歌っている。面白くなくて舌打ちをして自室へと潜り込んだ。
教室であいつが呪霊を祓った所を見てから色々と気を揉むことが増えてしまった。何も知らないまま呪霊を祓っていたAをこちらの世界に巻き込んだのは自分だ。だがそれは何も知らないということは危険なことでもあるから、と今思えば自分なりの優しさだったのかもしれない。
『分からないよ、伏黒くんには』
『私は伏黒くんの言う、その偽善に殺されてもいいよ』
何があいつをそこまで駆り立てるのか。それは術式のせいだ。俺はAのいう呪霊の意思というものを見ることは出来ないが、負の感情というものは何かしら想像がつく。それを幼い頃から肩代わりしていれば呪霊に対して情とも呼べるような感情を抱いてしまうのも分からなくはない。
しかし、それではあまりにもAという人間への負担が大きすぎる。現に、Aは泣いているのだから。
団地での場面。光の中で振り向くAの瞳と朧気になる輪郭。
俺はもうAと関わらなければいい。そう思い込もうとしても、光の中のAがこちらを向いているようでその姿に手を伸ばすことを止めることは出来そうにない。
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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません💦 (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時