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伏黒くんが言った意味を考える。虐めて、虐められて、負の感情が生まれる。その感情から巡り呪霊が構築し、ひいては私の術式で祓われる。それはつまり、端的に言えば。

「私のため、」

無意識に呟いていた。声に出すつもりなんてなかったのに。目の前に座る伏黒くんは視線をそっと外へそらした。その反応をからやっと自分が何を言ったのか理解できた、途端に恥ずかしくて顔に熱が籠もる。私はなんて都合のいい解釈をしてしまったんだろう。彼に限って特別そんなことを思うわけなんてないのに。

「……初めて任務に行った日、お前の術式をみたときだ」

視線を雨が降る窓の方へ向けながら伏黒くんは静かに話しだした。

「呪霊を祓った後、Aの輪郭がぼやけてるように見えた」

あの日だ。誰もいない団地、古びたマンション。あの日私は呪霊を祓った。その時の私の輪郭。

「お前が呪霊にのまれそうだと思った」

それが蝕まれるということ。伏黒くんは私が呪霊と感覚を共有することで呪霊に取り込まれるのではと、そう見えたらしい。

「そんなこと……」

ない、と否定したかったけれど伏黒くんは少し強い口調で口を挟んだ。

「気づいてないなら教えてやるよ。……お前は呪術師には向いてない」

今まで聞こえていた雨の音は一瞬にして聞こえなくなった。周りの音は何も拾わず、伏黒くんの言葉だけが頭に響いている。

「……どうして」

とっさに出た声は震えていた。手先が冷たくなっていく、雨のせいなんかじゃない。私は伏黒くんから目が話せなかった。彼の瞳に映る私は、ひどく狼狽えているように見える。

「Aは何でそこまでして呪霊を祓う」

呪霊を祓うことに疑問なんてなかった。それが最善だと思っていた。私が祓えば、それで負の感情が救われるから。



「皆が、幸せになるなら」


「……それが、お前の心を押しつぶしたとしても?」



伏黒くんは一体何を言っているんだろうと思った。押しつぶされる、そんなつもりはなかった。私は、誰かが幸せになれるならそれが私の幸せだと信じて疑わなかったから。あの光を見ることで私は救われたような気がしていた。


「Aはその偽善に、いつか殺される」


今までどうやって息をしていただろうか。行き場のなくなった私の呼吸がただ短く繰り返されるだけ。途切れていた雨音が今度は急に大きくなって、まるで自分の体の中に雨が打ち付けているようなそんな気がした。濡れた制服が皮膚に纏わりついている。

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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません‪‪💦‬ (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時

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