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「なんで俺の事避ける」
向かいに腰掛けた伏黒くんが、テーブルに頬杖をついて呟いた。視線は窓の方を見ている。外は徐々に暗くなっていた。
「避けてなんか」
「避けてんだろうか、別に嘘つくことじゃないだろ」
口調は荒い。けれど静かに淡々と紡がれる言葉。確かに私は伏黒くんのことを避けていた。それは余計な衝突を防ぐため。
「……クラスの子に、誤解を与えたくなくて」
小さく呟くと伏黒くんは間を置いてはぁ、とため息をついた。
「誤解って、なんの」
いざこうして聞かれると正直答えにくい。付き合っている誤解だなんて、伏黒くんからしたら迷惑でしかないし私みたいな人間が誤解される相手になってしまうから。
「その、伏黒くんと付き合ってるとか、私が……伏黒くんに気がある、みたいな……」
最後の方は彼にはほとんど聞こえないような声だ。
伏黒くんは外を見つめたまま、なにも答えなかった。私はそれ以上なにも言えなくて意味もなくテーブルを見つめている。部屋には雨の音と時計の秒針の音が響いている。
「迷惑だよな、そういうの」
ふいに伏黒くんが口を開いた。その声に引き寄せられるように私は視線を上げる。伏黒くんは私を見つめていた。
「勝手に噂して勝手に突っかかってくる。俺とAは別に何も無いのに」
何も無い、その通りだ。けれど一瞬胸が冷たくなるような感覚だった。それは私にとって、彼は唯一理解してもらえる人間だと思ったから。
「……そうだね」
見つめる黒い瞳から目を逸らしたくてまた視線を下げた。
「……この前の、」
伏黒くんの続けた言葉にぴくりと肩が反応する。
「悪かったよ。虫の居所が悪くて、Aに当たった」
まさか謝られるとは思ってなくて、思わずまた顔を上げた。彼は私と目が合うと気まずそうに視線を逸らす。また頬杖をついて、口元は手で隠れていた。
「いや、大丈夫……」
昨日の彼の様子が頭をよぎる。威圧感に満ちた彼の目と声。そして、別れ際に言ったあの言葉。今ならその意味を聞けると思った。
「伏黒くん、虐められていた彼を助けた意味を教えて欲しい」
自分が思っているよりもはっきりと声になっていた。
私の言葉を聞いた伏黒くんはぴくりと瞼を上げた。そして一度目を伏せて、頬杖を解く。静かに息を吐き出して、私の瞳と視線がぶつかった。黒い瞳の中に、私を捉えている。
「ああいう奴がいるから負の感情が生まれて、Aがまた蝕まれる」
そう思ったからだ。彼はそう告げた。
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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません💦 (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時