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五条さんの運転でAを家まで送り届ける。車内は静かだった。
「ここで降ろしてもらって大丈夫です」
「じゃあ、また明日」
Aは小さな声で俺にそういった。俺は返事をするわけでもなく、俺の代わりに五条さんが「しっかり休むんだよ」と笑顔で答えた。車は再度走り出した。
「Aは何を見たって?」
運転席からそんな声が聞こえた。
「……なにも」
何も言わなかった。Aは何を見たのか。
そう、といつもより静かに五条さんは返事をする。
窓の外はもう暗くなりかけていて、ぽつぽつと家の明かりがつき始めている。暗い窓には俺の顔が薄っすらと反射していた。その顔は自分の顔なのにどこか知らないやつのような気がした。外の移り変わる景色が自分の輪郭をぼかしていく。
「呪霊は意思なんてないですよね」
言うつもりのなかった言葉は思わず口からこぼれ落ちた。小さい声だったはずだ。だけど五条さんはその言葉を拾い上げた。
「意思はないよ、あれはただの負の感情が積み重なった呪い。……だけどね」
逆説の言葉に俺の耳は意識を傾けた。逸しちゃいけないと思ったから。
「Aの場合はどうかな、その積み重なった呪いが見えるから。それを意思と捉えても差し支えはないかもしれない」
窓に映る俺は眉根を寄せていた。口を結んで、さも不機嫌そうに。
―――呪霊すら救おうとするなんて俺は馬鹿げてると思う
今も思っている。だってそう考えなきゃやっていけないだろう。一つ一つの呪いを救うなんて。
Aの見ている世界を知らないから。Aが感じ取ったものを知らないから。
また明日と言ったAの声が脳裏をよぎる。光に包まれたAの姿が瞼の裏に焼き付いている。
はぁ、と息をついた。五条さんはそんな俺の気配を感じ取ったのか薄く笑っている。
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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません💦 (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時