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フェンスの向こうにいるAの肩を思わず掴んだ。そのまま落ちていきそうな、生と死の狭間にいるような、曖昧な輪郭をしていたから。
Aがフェンスの向こうに足を踏み入れた瞬間呪霊は現れた。このフェンスの向こうは彼岸であった。掴んだ薄い肩は僅かに震えている。振り向いたAの瞳には薄い膜が張っており、今にも零れ落ちそうだった。呪霊は光となり天へと昇っていく。帳は開いていた。上へ上へと昇る光とは対象的に涙は重力に沿って伝う。
「……何を、見た」
Aは一体何を感じ取ったのか。その問いに目の前のAは答えること無く、緩やかに悲しそうに微笑んだ。肩に乗せた手に僅かに力が入る。Aは肩に乗っている俺の手にそっと自身の手を重ねた。冷たい手だった。
その手には力なんて入っていないのに俺は抵抗することなんて出来なくて、そっとAの肩から手を退けた。
「戻ろう、伏黒くん」
そう口を開いたAは徐にフェンスに手をかける。がちゃんと大きな音がしてAはフェンスに体重をかけて、こちら側に降り立った。そこまでして初めて、Aの輪郭がはっきりしたように思う。ぼんやりとAを見る俺の横をAはすたすたと扉に向けて足を進める。夕日がAの後ろ姿を照らしていた。ゆらりとAの足元から伸びる影が揺れたような気がした。
―――あれはそのうち呪いに飲み込まれる
五条さんの声が聞こえた気がした。
仮に、あの呪霊が飛び降りようと志願する人間を後押しするような、最後の一線を超えさせるようなそんな呪霊であったなら。Aが見たのものは一体何なんだろうか。泣きたくなるようなそんな光景を見せつけられて、あの薄い体で受け止めて。
向いてないよ、A。
お前は呪術師には向いてない。
それでも光に包まれたあの瞬間のAは、脳内にこびりつくようで目を閉じても離れることはない。
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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません💦 (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時