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震える手にギュッと力を入れて、フェンスを掴んだ。鉄のひんやりとした感覚とささくれ立つ様な金属。ここから飛び降りる人は皆このフェンスを掴んだんだろう。
足を踏み入れた、瞬間。目の前に大きな口が見えて、一瞬世界はゆっくりと動いていた。じわりじわりと近づく大きな口にああ自分はこの呪霊に食べられるんだ、ここに立った人は皆この呪霊に食べられて、気づいたら地面の底に体を打ちつけて、そんなイメージが自分の中に流れ込んできた。
「Aっ!!」
伏黒くんの声が聞こえた、そしたら目の前は真っ暗になった。
目の前には同年代の男女数人。顔は黒く塗りつぶされていた。
「あは、きも」
「いつまで生きてんの、あんたが生きてて嬉しい人なんていないでしょ」
「うぜぇ目してんじゃねぇよ」
「あーあ、こんな姿誰にも見せられないね」
言葉は私に降りかかる。地面に座り込む私の服はボロボロで手は土だらけだった。
『もう嫌だ、死んでしまいたい』
そう思った。
目の前にはまた顔を黒く塗り潰された母親。
「あんたがいるから金かかるのよ」
「邪魔な子、あんたなんか産まなきゃよかった」
「私の自由を返してよ」
立ちすくむ私に投げかけられる言葉。握りしめようとした手に力は入らない。
『死んだら楽になれる?』
そう思った。
それから、それから。繰り返し浴びさせられる言葉や、あまりにも残酷な世界が目の前に広がった。そのたびに私は『死にたい』と思って。繰り返されるたびにその呪霊の感情と繋がった。死んでしまいたい、死んでしまいたい。救いのないこの世から消え去って。なんて不平等な世界。私ばかり、私ばかり。死んでしまえ。喉の奥が震えて、手が震えて。口を開けるけれど呼吸なんて出来なくて。ひゅ、と細まった気管に僅かな空気の通る音。
『飛び降りようか』
ふとそんな自分の声が聞こえた。
目を開けた。小さな白い光が見えた。段々と近づくその光は夜明けのようだった。
一度瞼を閉じて、そしてもう一度瞼を開く。
視界は涙で滲んでいる。瞳に映るのは屋上からの眺めと、キラキラとした光の粒だった。
「……A」
名前を呼ばれて振り返る。フェンスの向こう側に伏黒くんが立っている。その目に光の粒が反射していた。
―――呪霊は生き物じゃない。意思なんてない
違うよ、伏黒くん。これが呪霊の意思なんだよ。人が確かに感じた負の感情なんだよ。
涙が頬を流れた。誰かの痛みが涙とともに流れ落ちている。
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雛形(プロフ) - hiyoriさん» hiyoriさんコメントありがとうございます!凄いと言っていただけて本当に嬉しいです…!私の場合小説を作る時はテーマを決めて大体のプロットを立ててから書き始めています。1話1話はそれに沿うように勢いで書いて推敲して、というような感じですね! (2022年10月3日 8時) (レス) id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
hiyori - 凄いです😭 どうやって小説は作るんですか? (2022年10月2日 22時) (レス) @page5 id: 3185205e6c (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - アキさん» アキさんコメントありがとうございます!他の小説も読んでいただいた上にさらにコメントまで!本当にありがとうございます!嬉しすぎて転げ回ってしまいます…!不定期更新になりますがこれからも頑張りますね! (2022年9月30日 1時) (レス) @page29 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
アキ(プロフ) - 主様の書く小説どれもドストライクすぎます😭💕💕 (2022年9月23日 1時) (レス) id: 011262e667 (このIDを非表示/違反報告)
雛形(プロフ) - 春雪さん» コメントありがとうございます。見直したのですが名前変換できない部分が分からず、念の為更新したのですが現在も変換出来ない様でしたらどの文章の所か教えて頂けますでしょうか…?本当に申し訳ありません💦 (2022年7月24日 23時) (レス) @page9 id: 75869cdb85 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雛形 | 作成日時:2022年1月26日 19時