可愛くねぇ奴。 (ページ7)

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『うわぁ、さみぃ……』
「ほんと寒いですね」

会計を済ませ、みんなでお店の前でダラダラと駄弁っている時も自然と一緒にいた私達。

『酔いました？』
「そんなに飲んでないので酔ってないですよ」
『俺ほろ酔いだったんすけどこの寒さで完全に醒めましたw』

肩をすくめ、さむいさむいと手を擦る岸さんに、私は「よかったですね」と微笑んだ。

上司の合図でようやくお開きになった歓迎会は楽しかった。とても。とても。

『Aさん、もう夜も遅いっすからよかったら送りますよ』
「じゃあ一緒にタクシー乗りましょうか」
『そうっすね』

タクシー呼びますね、と携帯を触る岸さんと、マフラーに顔を沈めながらありがとうございます、と小さく頭を下げる私の元に、沢山の女性に囲まれていた彼が小走りで駆け寄った。

「Aさん！」
「岩橋くん」
「もう夜遅いし送っていくよ」

『あ、それなら___』と岸さんは言う。

『お前もタクシー乗ってく？Aさんと一緒に帰ろうかってなってたから』
「え！乗る！」

捕まえたタクシーでは、助手席に岸さん、後部座席に私と岩橋くんが並んだ。

「ちゃんとお腹いっぱい食べた？」
「食べたよ、美味しかったね」
「Aさんとも話したかったな」

職業柄、何となく慣れてしまった甘い言葉。
私ってつまらない、と頭の奥で感じた。

「岩橋くんモテモテだから囲まれてたねw」
「ありがたいんだけどね～…」

ミラー越しで岸さんを見ると、彼はぼうっと、流れる都心の夜景を見ていた。

都心の灯りがチラチラと彼の綺麗な顔を照らす。

さっきまで明るく人懐こく話していたのに、急に色気で溢れている。

「私はここで、」

住んでいるタワーマンションが丁度見えない所にタクシーを止める。

夜の仕事をしていると、昼の仕事をしている人よりも正直収入は多い。都心のタワーマンションに住んでいることがバレたら、変に勘付かれてしまうかもしれない。

それだけは避けたい。

「うん、気をつけて帰ってね」
「うん」
『おやすみなさい』
「はい、おやすみなさい」

わざわざ助手席の窓を開けて、見せてくれた笑顔はもうあの人懐こい甘い笑顔。

小さく2人に手を振ってマンションへと足を進める。

夜も寒さも深くなって、息は真っ白。

グンと体を冷やしていく。

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